38話 伊達工 と 試合
因縁の伊達工戦。
第一セット序盤は、互いに点を取り合う形で進んでいる。
伊達工のブロックは予想通り過ぎるほど強烈で、旭さんはだけでなく日向くんの速攻も捕まった。そう、“普通の速攻”は。
3対2で烏野一点リードで来た速攻のチャンス。
それは一瞬だった。
ドバンッ!!
烏野の最強の囮の超速攻がついに公式戦で始めて披露されたのだ。
相手チームの選手はおろか応援席までも一瞬しん…と静まり返ったかと思うと、次の瞬間には物凄い数の驚きの声。
「なんだ今のオオオオ!!?」と聞こえてくる声にニヤリと口の端をあげて笑うあたしの顔は多分、例の従兄弟そっくりだと思う。
『日向くん、ナイスキー!!』
聞こえるかは分からない、でもこの嬉しさを叫ばすにはいられない。
手すりから少しだけ身を乗り出して言うと、サーブのためにエンドラインの方へ歩いてきた日向くんが笑顔を向けてきた。
けど、これで終わりじゃない。
問題はここからなのだ。
それからはまた点の取り合いが始まって、気づいたらあっという間に一回り。
日向くんが前衛にあがると再び決まった超速攻。
たまらずタイムをとった伊達工の意識は完全に日向くんに向いている。
『(旭さん…)』
タイムが開けてからは伊達工はあからさまに日向くんを警戒していた。やっぱり、と思いながらドキドキとしている自分の胸を押さえる。
ここだ、そう思っていると「はやくはやく!」と聞き覚えのある声がした。
『あ!女子バレー部の…』
「こんにちは!名前ちゃん!!」
「良かった男子の二回戦まだやってる!」
「すごい、伊達工に勝ってる…!」
現れたのは道宮先輩や女子バレー部の皆さん。
応援に来てくれたんだな、と頬を緩めたところでまた日向くんが点を決めた。
「え…何今の…」「速攻…?」「あれって1年だよね…?」「あの小さいコ凄い跳ばなかった…?」と驚きを見せる女バレの皆さんに内心笑っていると、道宮先輩の小さな呟きが聞こえた。
「菅原は出てないのか…」
それは多分、同じ3年生という立場の道宮先輩からしたらショックなことなのだと思う。
コートの選手に懸命にエールを送るスガさんはきっと今はそんなこと気にしていない、彼が考えているのはただ1つ。
『勝つことだけ…』
「え?」と首を傾げてきた道宮先輩にはっとして何でもありません、と笑って返すと不思議そうな顔をしながらも、先輩はコートへと視線を移した。
それに続くように、自分もコートを見ると伊達工の7番の眉なしさんが日向くんの速攻を止めていた。
『っ、ドンマイドンマイ!!次だよ!!』
「おいおいおい、伊達工のブロックやべぇな」
「今の相当テンション上がっただろうな伊達工…」
道宮先輩たちとは逆の右隣にいるメガネさんと金髪さんの言葉に手すりを握る力を強める。
大丈夫、重要なのはここだ。
伊達工のサーブはこっちのレシーブを崩した。
センターに高くあがったボールを日向くんが打つとブロックに見事に捕まる。まずい、と思ったとき、ボールの落ちる先には“守護神”の姿。
『っ、ノヤあああああ!!!』
ナイスフォローをしたノヤのあげたボールは影山くんがとった。
「持って来おおおおい!!」と叫ぶ日向くんに釣られるように飛ぶ伊達工のブロッカー。
いま、ここだ。
『旭さん!!』
ズドン!!と凄い音と共に決まったエースの一打。
それと同時込み上げてきたのは、なんとも言えない熱いもの。
ああ、泣きそうだ。
ウォームアップゾーンにいるスガさんもガッツポーズをしている。
今年の3月から約3ヶ月。
今、やっと、あの日からとまった“エース”の時間が動き出した気がした。
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