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36話 東峰 が 話す


一回戦無事に勝利を治めたみんなの元へ行くと、鬼の形相をしたノヤと田中に「敵と応援してんな!!」と怒られてしまった。

ギャーギャーと騒ぐ二人には慣れたものの、とりあえず黙らせようとすると、私よりも早くコーチが動いて二人の頭を掴んだ。


「うるせえええええ!!他の学校もいるんだ!静かにしろ!!」


コーチの叫び声もなかなかの大きさで、周りの視線を余計に集めたけれど、うるさい二人には効果抜群だった。


「次の試合は1時半からだ、身体冷やすなよ!」

「それまでに軽く飯食っとけ、腹いっぱいにはすんなよ」


田中とノヤから頭をはなしてそうい言ったコーチの言葉に頭を擦りながら「うーす」と返す二人に小さく笑っていると、視界の端に映った何かを考えるようなスガさんの姿。

もしかして、さっきコーチが「二回戦のメンバーは一回戦と同じ」と言ったことが関係しているのだろうか?とスガさんを見ていると、それに気づいたスガさんとバッチリ目があってしまった。


『…あ、あの、スガさん、』

「…大丈夫だよ、多分、名前が考えてるような感じじゃないからさ」

『…そう、なんですか?』

「おう!」


「ほら、飯食うぞ」と笑うスガさんは確かにスッキリした顔をしている。思い違いか、とホッとしたのだけれど、チラリともう一度スガさんを見ると、やっぱりどこか心配そうな顔をして何処かを見ている。
その視線の先を追うと、そこにいたのは旭さん。

そういうことか、


『…大丈夫です、スガさん』

「え?」

『“壁”を今度こそぶち壊しますよ』


「うちのエースは」とつけ足して笑うと、驚いた顔をしたあと、すぐに苦笑いして「かなわないなあ」と言ったスガさんに頭を撫でられたのだった。









『旭さん』

「ん?ああ、苗字か」


お昼を食べた後に午後の準備を終えると、なんだか喉が渇いたので自販機に。すると、その途中でイスに1人腰かけていた旭さんを見つけた。


『お一人ですか?』

「…皆、やけに気を使ってくれてるというか…」


苦笑いすると旭さんにハッとして、「す、すみません!」と頭を下げるとキョトンとした顔の旭さんが首をかしげた。


「え?」

『その…皆旭さんが集中できるように1人にしていたのに…私、何にも気づかないで普通に声をかけちゃったんで…』


「ごめんなさい」ともう一度謝ると、「いや、別にいいんだ」と旭さんが笑ったので、心配そうに彼を見ると、優しく目を細められた。


「…少し話し相手が欲しかったところなんだ」


「付き合ってくれないか?」と言う旭さん。
もしかしたら気を使わせてそんな事を言わせてしまっているのでは、と思って「私で大丈夫ですか?」と恐る恐る聞くと、小さく笑われながら頷かれた。


『じゃあ、その…失礼します』


少し恐る恐るといったように、旭さんの隣に座ると、更に笑われてしまった。


「…ごめんな、苗字」

『え?』

「ほら、今朝伊達工の奴等に言われてただろう?
…俺がもっと強ければ、苗字だってあんな風に言われて気分が悪くなることだって…『ストップです!』!?」



その先は言わないで欲しい、と眉を下げて申し訳なさそうな顔を向けてくる旭さんの言葉を遮ると旭さんは大きく目を見開いた。


『旭さん、私は伊達工の人たちに言われたことなんてなんとも思っていません。…そりゃ、ムカついたりはしましたけど…でも、あの時応援した自分を可哀想なんて思いません』


確かに、伊達工の茶髪の彼が言った言葉を思い出すと自然に眉が寄ってしまう。それだけ悔しかった。
でも、だからと言って、あの時懸命に戦っていた選手に謝ってもらうなんて絶対に嫌なのだ。

じっと旭さんを見つめていると、苦笑いをした旭さんは「分かった」と頷いた。


「…謝ったりしないよ、それこそ苗字に失礼だもんな」

『旭さん…』


ふっと笑みを見せたかと思うと、旭さんは視線を少し下げた。
そんな旭さんの膝のうでで組まれている両手を見ると力が入りすぎていて少しだけ震えていた。

その手にそっと自分の手を置くと、ビクッと旭さんの肩が揺れた。


「ちょ、苗字?」

『大丈夫です、旭さんなら乗り越えられます』

「っ」


さっきとはまた違った様子で見開かれた目には少し不安の色も見えた。

ああ、やっぱり。旭さんにとって伊達工は特別な相手なのだと改めて思わされる。

自分ができる最大限の笑顔を旭さんに向けてみせると、旭さんは数回瞬きをしてから、「まいったな」と笑う。


「…今ならスガの気持ちがよく分かるよ」

『スガさんの?』

「…けど、スガを敵に回す気はないよ」


「大地もな、」と付け足す旭さんの手を見ると、いつの間にか手の震えは止まっていて、力も抜けていた。
言っている意味はよく分からなかったけど、とりあえず良かったとまた笑ってみせると、旭さんの大きな手が頭の上に乗せられた。


「…頑張ろうな、」

『っ、はい!』


頑張る、ではなく頑張ろう、そう言ってくれた旭さん。
例え一緒にコートに立つことはできなくても、あたしは烏野の皆と一緒に“たたかう”のだ。

旭さんと目をあわせて笑顔を向けあっていると、「…旭?」と我らがキャプテンの声がした。
あ、大地さんとスガさんだと思って旭さんを見ると、何故だか凄い冷や汗をかいていて、「旭さん?」と首をかしげると、ハッとしたように頭の上にあった手を降ろした。


「…あ、さ、ひ?」

「い、いや、スガ、こ、これはその別に深い意味はなくてだな…」

「…とりあえず、その話は試合が終わってからまたあらためて…な?」


「行くぞ、」と旭さんに声をかけた大地さんはコートへと向かう。チラリと旭さんを見ると、そんな私に気づいた旭さんは柔らかな笑みを返してくれた。


「…勝ってくる」

『はい、』


いつの間にか来ていたノヤと共にコートに入って行った旭さんの背中は、今までのどんな時よりも“エースの背中”だった。

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