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34話 青城 が 来る


二階席に上がると、聞こえてくれるのは各チームの応援の声。太鼓を叩いて応援するチームもあれば、メガホンを使う所もある。残念ながらうちには何もないけれど、これでも声の大きさには自信がある。

そのときふと過ったのはさっきの茶髪くんの言葉だ。

“可哀想だなぁって”

嫌なことを思い出して眉を寄せていると「苗字?」と聞き覚えのある声がして、振り返るといつかの恩人の姿が。


『あ!岩泉さん!』

「お前、烏野でマネージャーしてたのか?」

「あっ!!ちょっと!なんで岩ちゃんが名前ちゃんのこと知ってるわけ!?」

『あ、及川さん』


岩泉さんの後ろから今度は及川さんが現れて、「こんにちは」と笑うと、「やっぱり名前ちゃん可愛いねー!」とお世辞を言ってくださった。

苦笑いして返していると、「困らせんな!」と岩泉さんが及川さんの頭を一叩き。
「痛いなー」と文句を言った及川さんはそれからすぐに何かを思い出したように「あ!」と声をあげた。


「それで!なんで岩ちゃんが名前ちゃん知ってるの!?」

『この前、岩泉さんが困っている所を助けて下さったんです』

「ええ!なにそれ!!」


「岩ちゃん美味しすぎる!」とよく分からないことを言った及川さんに首を傾げていると、岩泉さんがまたもや及川さんの頭を叩いた。


「で、なんで苗字はこのボケのことも知ってんだ?」

「俺たちメル友だもーん」

『あ、はい、最近よくメールを下さいますもんね』


「ねー?」と笑ってきた及川さんに頷いた所で、及川さんに三度目の岩泉さんからの制裁。
「ちょっと!今のは理不尽!」「あ、わり、なんかつい」というやり取りをする二人に笑っていると、二人の後ろにいた黒髪の人と目があった。


「…どうも」

『あ、はい、こんにちは』


挨拶をしてきてくれたその子にペコリと返すと及川さんが「あれ?国見ちゃんとも知り合い?」と聞いてきたので首をふって否定していると、「あの、なんかすげー見られてますよ!」と国見さんという人の隣にいたらっきょう頭の人が慌てたように言ってきた。

「え?」と思って下を見ると


「おいごるるるらあああああ!!ちゃんと応援しろ!馬鹿名前!!」

「他校のヤツと仲良くしてんじゃねええええ!!」


と田中とノヤから物凄く大きな声で言われて、苦笑いしてから「はいはい、」と笑うと、二人はコーチに怒られてアップに戻っていった。









「あれっ!リベロが居るねぇ、練習試合の時は居なかったのに…」

「なんかデカイ奴も増えてんな…」


隣にいる二人の声に、そういえば青城とは休んでる間にしたんだったと思い出す。


『青城との練習試合のとき、あの二人はちょっと訳ありで来れなかったんですよ』

「そりゃお前もだろ」


岩泉さんの言葉に「あはは」と曖昧に返していると、岩泉さんや及川さんがいる方とは逆側から「あの、」とさっき目があった人に話しかけられた。


『はい?』

「…おれ、北川第一出身なんですけど…」

『え?じゃあ影山くんと同じ…?』

「はい、」


そういえば、北川第一の子達はたいがい青城に進むと聞いた気がする。「そうなんですね」と返すと「年下なので敬語はいりませんよ」と言われたので、遠慮なくはずさせてもらうことにした。


「苗字先輩、ですよね?」

『え?そうだけど…』

「じゃあ南三中の?」

『え!』


「なんで知ってるの!?」と驚くと「中学の時影山が言ってました」と返ってきた。
及川さんも似たようなこと言っていた気がするし、影山くんはいったいどんな風に話していたのだろうと、少しだけ恥ずかしくなった。


「俺、国見英って言います」

『あ、私は苗字名前って言います。
よろしくね』

「あの、俺中学の時に先輩の試合見たことがあります」

『え?そうなの?』

「…だから、見てました、…あの日の試合も」


ドキリと心臓が大きく音をたてた。

決して華やかではない私のバレー人生の中で、記憶に残るような試合、それも他の人の、そんなのたった一つしかない。手すりを掴んでいた手に力を込めると、国見くんから心配するような声が聞こえた。


「…あの、」

『ああ、ごめんごめん!
…あの日の試合って、私の…最後の試合のことだね』


細く緩めた視線を下に向けると公式ウォームアップ終了の笛が鳴っていた。集合する皆を見ていると、手に入った力がだんだんと抜けていった。


『ごめんね、』

「え?」

『あんな試合…っていうか、光景見せられたって嫌だよね』

「…いや、…俺こそすみません」

『ううん』


「気にしないで」と笑った所で選手たちが整列した。

“ピーッ!!”

インターハイ宮城県予選が始まった。

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