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29話 岩泉 が 助ける


部活も自主練も終わって、クソ及川が出るを見届けてから部室を出た。
「あれー?岩ちゃん一緒に帰らないのー?」なんて気持ち悪い事を言ってくる及川に眉を寄せて用事があることを伝えると、「ふーん、じゃあ、またねー」とさして興味もないような返事をかえしてきたので、思わず一発殴った。
興味ないなら聞くんじゃねぇ!!

文句を言ってくる及川を無視して歩き出すと、後ろから「岩ちゃんのバカー!!」とかなんとか聞こえてきたが、これも無視。

早くアイツから離れようと、小走りで目的の場所へ向かうことにした。





「ありがとうございました!」


閉店ギリギリになんとか間に合って買えた自分用のテーピング。
インターハイまであと10日、必要なものは揃えて置かなければないなら。

買えたことにホッとして、さっさと家に帰って休もうと帰路についていたときだった。


『っ…、』

「!?おい!!どうした!?」


いきなりだ、
少し前を歩いていた制服姿の女が壁にもたれるようにグラリと揺れた。慌てて駆け寄ると、女が俯かせていた顔を少しだけあげた。


『…大丈夫、です。気にしないで下さい…』

「ああ!?馬鹿かてめえは!!そんなフラフラな人間が大丈夫とか言ってんじゃねえ!!」


思わず叫ぶように怒鳴ると、女は目を見開かせてから小さく笑った。


『…優しいんですね…』

「なっ…と、とにかく、どっか痛いのか?なんなら救急車呼ぶか?」

『いえ、あの…本当に気にしないで下さい、慣れてますから』


眉を下げて苦笑いをした女はペコっと頭をさげてくると、また歩き出そうとしたが


『っ!』

「危ねえ!」


まるで力が入ってないかのようにガクっと折れた女の膝。咄嗟に腕を掴むと、女が「すみません…」と謝ってきた。


「たく…言わんこっちゃねぇ!…家、どこだ?」

『え?』

「送るっつってんだよ」


はぁっとため息を吐いて女を支え直すと「でも、」と申し訳なさそうに歪められた目と目があった。


「…あのな、こーゆー場面でほっとけっつー方が無理だろ」

『でも、見ず知らずの方にそこまで迷惑をかけるわけには…』

「いいから。…黙って送られろ」


クシャリと女の頭を撫でると、柔らかい髪に一瞬ドキッとしちまった。そんな俺なんて知らない女は、また迷うように瞳を揺らした後、苦笑いして頷いた。










『本当にすみません…』

「だから、いいっつってんだろ?」


もぅ何度目か分からない謝罪にため息混じりに返す。
本来ならおぶってやるのがいいが、生憎荷物があるからそうはいかない。
なんとか支えるようにして歩いてはいるが、普段女とこんなに密着することはないため、変にやりづらくて、腰の辺りに添えている手がなんだか熱い。

早くついてくれ、と心のなかで思っていると女の足がまた揺れた。


「うお!」

『っ!』

「…おいおい、普段からこんなんなのか?これ、安静にしてた方がいいんじゃねぇの?」

『いえ、その…普段は薬持ってて…それを飲めば痛みもおさまるんです…でも今日は家に忘れちゃって…』

「…薬?」


あまり馴染みのない言葉に聞き返すと、「はい」と小さな返事が返ってきた。


『…元々怪我持ちで…一応完治してるんですけど…変な衝撃とか加えると、その…』

「衝撃って、なんかあったのか?」

『…さっき自転車がすごい勢いで走ってきて…なんとか避けたんですけど、そのとき変に捻っちゃったみたいで…』

「膝を?」

『いえ、足首です、膝は足首を捻った衝撃で、といいますか…』

「おい、てことは…足首も痛めてんのか!?」

『え?あ、…い、一応…』


我慢強いも程があると思う。
いや、そりゃもし俺だったら足捻ったくらいなら、歩くだろうけど、さっきの様子からすると、膝はそうとう痛いみてぇだし…


「おい、もっとこっちに体重かけろ!怪我してる方にかけんな」

『あ、』


グイと腰にあった手を肩に回して引き寄せると、さっきまでほとんどなかった重みがかかってきた。


『…あの、お名前聞いてもいいですか?』

「ん?ああ、青葉城西高校3年の岩泉だ」

『私は、烏野高校2年の苗字名前です』


「今度、絶対お礼しますね」と笑った苗字。
なんだ、普通に笑えるじゃねえか、と思いながら「礼なんていらねぇ」と返すとそうはいかないというように首をふられた。


『…あの、ところで、岩泉さんと、どこかで会ったことありますかね?』

「は?…いや、普通にないと思うぞ?」

『なんだか見たことある気がして…すみません、多分気のせいです』


苦笑いしてきた名前にそうか、と返した所で、ゆっくりと進んでいた足が止まった。


「もぅいいのか?」

『はい、そこなので…あの、本当にありがとうございました』

「いや、気にすんな」


「したくてしたことだ」とまた苗字の頭をくしゃっと撫でると、嬉しそうな笑顔を見せられた。
それになんだか動揺しちまって慌てて手を離すと、不思議そうな目でみられた。


『じゃあ、これで…』

「…おう、」


ピョコピョコと歩く苗字が家のドアを開けたのを見てから歩き始める。
もう少しアイツの家が遠ければ良かったのにな、なんて思ったりしてしまった。

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