24話 音駒 と お別れ
「もう一回!!」
日向くんのその言葉で行われた二試合目と三試合目。
結果はどちらも僅差で音駒の勝利。
合計6セットを連続でした皆は流石に疲れていて、中には倒れ込んでいる人もいる。
「もう一回!!」
「うぬっ!?なんなんだ!目茶苦茶動いてるだろ!?体力底無しか!」
「コラコラコラ!だめだ!新幹線の時間があるんだ!」
「〜っ」
勝つまで、と言いたげな日向くんの首根っこをつかむコーチ。そんな様子に苦笑いしていると、猫又先生の優しげな声が聞こえた。
「またうちとやりたいなら、公式戦だ
―全国の舞台、沢山の観客の前で、数多の感情渦巻く場所で、ピカッピカキラッキラのでっかい体育館で、
“ゴミ捨て場の決戦”最高の勝負、やろうや」
「―!!」
「―ハイ!!」
「集合!」
大地さんと鉄朗の声でそれぞれ相手チームの監督さんたちの元へと集まる。
私はというと、ようやく潔子さんと再会を果たした。
『潔子さ〜ん!』
「ふふ、お帰り」
ぎゅっと潔子さんに抱きつくと、優しく頭を撫でられる。
あ、なんだか今なら死んでもいいかも、
はぁっと息をはいて潔子さんから離れると、何故だかニヤリとしている潔子さんと目が合った。
「この間言ってた、兄みたいな人って、」
『はい?』
「音駒の1番?」
『ええ!?』
「どうして分かったんですか!?」「名前分かりやすいから」とクスリと笑った潔子さん。
そんな笑顔もお美しいけれど、なんだな凄く恥ずかしい。
「片付けー!」
『あ、き、潔子さん!ぼ、ボトル洗いに行きましょう!!』
「ふふ、はいはい」
意味深に笑う潔子さんの背中を押して水道へ行こうとすると、一瞬鉄朗と目があった気がした。
「名前、」
『あれ?鉄朗?』
洗い終わったボトルを片付けていると、ひょっこりと現れた鉄朗。どうしたの?と聞こうとしたとき、それよりも早く隣にいた潔子さんが口を開いた。
「先に戻っとくね」
『え?でも…』
「いいから、」
「頑張れ」と小さな声で囁くと鉄朗の横を通って戻って行く潔子さん。その表情はやっぱりどこか意地悪だった。
まぁ、そんな顔の潔子さんも大好きだけれども。
「…名前」
『え?ああ、なに?』
「いや、ただ、またしばらく会えなくなるからよ」
『うん、』
「充電させてもらおうと思ってよ」
『は?』
「充電?」と首を傾げた瞬間掴まれた腕。そのまま引っ張られたかと思うと背中に回された長い腕。
『ちょっ!!な、何して!だ、誰か来たら…!』
「黙ってろ」
慌てる私とは反対に冷静な鉄朗は更に腕に力を込めた。
「…次会うときまでに、」
『な、なに?』
「他のヤツのものになんかなったりしたら、そのときは…」
そのときは、なに?
そう言おうと何とか鉄朗を見上げた瞬間、口の端しに感じた柔らかい感触。
『なっ!?』
「そのときは、こっちにするから」
ニヤリと笑って唇を指でなぞる鉄朗に顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせていると
「「ぎゃああああああああああ!!!」」
「なんだ!?」
『えっ!う、なっ…た、田中!?ノヤ!?』
急に聞こえた叫び声にそちらを向くと、顔面蒼白にして固まっている2人。
まさか見られていたのか、とさぁっと顔から血の気が引くのを感じていると、グイッと腕を引かれて、いつの間にか鉄朗の腕から抜け出している。
「…うちのマネージャー、困らせないでもらえますか?従兄弟さん」
真後ろから聞こえた声にそちらを向くと、ぎゅっと眉を寄せたスガさんがいて、どうやらあたしを引っ張ったのは彼のようだ。
「「…」」
無言でにらみ合い始めた鉄朗とスガさんに困り果てていると、パンパン!っと大地さんが手を叩いて全員の視線がそちらに集まった。
「ほら!そこまでだ!」
『だ、大地さん!』
「音駒の皆さんの見送りするぞ、スガも主将さんをそう睨むな」
「な?」と諭すように言う大地さんにスガさんは眉を下げて笑って「分かったよ」と言う。
ああ、流石頼りになるキャプテンだと感心していると、「名前」と鉄朗に呼ばれて振り替えると屈んだ彼の口が耳元に寄せられた。
「さっきの、忘れるなよ」
『っ、』
「じゃあな」とポンポンと頭を撫でて横を通って行った鉄朗。あんな恥ずかしい言葉忘れたくても忘れられるか、とさっき触れられた唇を手で覆う。
『…馬鹿』
大地さんと握手をしたあと、こちらを振り返っ鉄朗に悔しまぎれにベーっと舌を出してやったのだった。
prev next