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23話 日向 が 笑う


人間、辛いことや苦しいことにぶつかると挫けそうになるものだけれど、今、目の前でプレーしているあたしの後輩はどうやら違うらしい。


「―わらった」


何度も何度も犬岡くんのブロックに捕まった日向くん。見てるこっちが苦しくなりそうなときだった。

日向くんは、わらったのだ。

彼の笑みを見た研磨くんも、鉄朗も、そして烏野の皆でさえも、その異様な雰囲気に何かを感じたのか、表情を変えた。


『…転んでもただじゃ起きない』


日向くんの笑みを見てそう呟くと、猫又先生の視線がこちらに向いた。


『日向くんは、“飛びます”よ』


にっと歯を見せて笑うと、少しだけ目を見開いてから猫又先生は面白そうに喉を鳴らして笑っていた。










15対12、以前音駒リードで試合は進んでいる。
途中、烏養コーチが一度タイムをとった。

そしてそのタイム明け、日向くんが初めてトスを見たのだ。それから、影山くんのトスが少しだけ柔らかいものになった。インダイレクトデリバリーのトスを日向くんはなんとか犬岡くんを避けようと打つ。

“頑張れ、”

そう思ってシャーペンを強く握ったとき、日向くんの打ったボールが綺麗にブロックを避けて床に落ちた。

ピッと笛を吹いた審判の出しているジャッジはアウトだった。


『日向くん!惜しいよ!!』


相手のベンチだからと今まで遠慮して声を出すのは控えていたけれど、つい我慢出来なくなって日向くんに声をかけた。
私と目が合うと日向くんは頷き返してくれてからゆっくりと口を開いた。


「もう一回」


日向くんの真っ直ぐな瞳に頷き返したところで、感じたのは鋭い視線。視線の送られてくる方を見ると目が合うのはもちろん鉄朗。
じっとこちらを見てくる鉄朗にうっ、と言葉をつまさせていると「ちゃんと見とけ」と鉄朗が口パクをしてきたので、数回首を縦にふってみせた。










「ソオオオオオイ!!」

「うおっしゃあああ!!」


二セット目の終盤、18対15の場面、烏野としてはここで追い付いて、なんとか先に20点台になりたいものだけど、


「20p以上の身長差で犬岡と互角以上に戦うなんて、すげーなチビちゃん」


前衛にあがった鉄朗が何やら日向くんに話しかけている。
「チビって言う方がチビなんだぞ、コラァ!」と鉄朗の挑発に怒る日向くんだけれど、そんな彼を無視する鉄朗の視線のさきには影山くん。

うちの一年をあんまりいじめないで欲しいなぁ、と眉を寄せていると、日向くんの打った超速攻が鉄朗の上を通っていった。ざまあみなさい、と思ったのはここだけの話。

そのあとは、日向くんのサーブだった。リベロの方に向かったそれは、もちろんなんなくキャッチされ、綺麗にセッターに返される。前衛の三人が動き出して誰が打つのかとふブロッカーが迷ってる隙にフワッと研磨くんがあげたトスは前衛三人の頭を飛び越える。


『バックアタック!』


ノーブロックで打たれたものだから、つい「落ちる!!」と思ったが、「ホギャア!」と言う悲鳴と共に日向くんがなんとかあげた。


「チャンスボール!」


一度で返ってきたボールを夜久さんが綺麗に拾って再び音駒の攻撃。今度は誰だ、と考えている間に田中と日向くんの間に落ちたボール。


『Aクイック…』


安定感ある鉄朗と研磨くんのAクイック。
こんなにも綺麗なコンビはあまり見れない。

19点になった音駒のサーブは山本くんで、田中の乱れたサーブレシーブをノヤが旭さんにあげた。


「旭さん!!」

「っ!!」

『うわっ、ウソ…』


旭さんの打ったボールは夜久さんの真正面にいき、見事にレシーブされてしまう。そこでスパイクの動作に入った鉄朗に、月島くんと旭さんが反応してみせる。


『(速攻に二枚!これは止められる!)』


そう思ってシャーペンを握り直したとき、鉄朗の動きがピタッと止まった。


『1人時間差…』


見事決まったそれにポカーンとしていると、研磨くんとはいタッチを済ませた鉄朗がこちらを向いてニヤリ。速攻だと、引っ掛かった数秒前の自分がなんだか恥ずかしい。
結局そこで音駒は20点になってしまった。焦るコーチの様子をニヤニヤとしながら見る猫又先生に苦笑いしていると、隣のベンチでコーチが立ち上がった。


「パワーとスピードでガンガン攻めろ!!」


ポカーンとした顔をした烏野の皆、ちなみに私もシャーペンを落としそうになった。


「へたくそな速攻もレシーブも、そこを力技でなんとかする荒削りで不格好な今のお前らの武器だ!!」

「あ〜くそ、こっちの雰囲気に呑まれてくれたと思ったのにな…」


烏養コーチの言葉に残念そうに呟いた猫又先生。
でもその表情はどこか楽しげだ。


コーチの言葉通りに攻め続ける烏野に私も思わず「らしいな」と笑ってしまった。
その後、猫又先生が一度めのタイムをとった。
「しっかり繋ぎなさい」と言った先生も言われた選手たちにも焦りなんて全くてこっちが驚いてしまった。
それから取っては取られを繰り返し、気がつくと24対23で音駒のマッチポイントに。


「叩け!旭!!」


攻めて攻めて攻めまくる烏野に音駒の一年生くんが心配そうに声をあげた。


「ああっ…また烏野のチャンスボールに…!」

「それでいい」

「?」

「不格好でも攻撃のカタチにできなくても、
ボールを繋いでいる限りは、負けないんだ」


猫又先生の言葉にゴクリと唾を飲む。
そう、バレーは攻撃をしていればいいと言うものではない。

日向くんの打ったボールが辛うじてあがり、ネットに跳ね返されたそれを海さんが触る。


「―強いスパイクを打てる方が勝つんじゃあないんだ」


ボールが音駒のコートに落ちそうになったとき、ボールと床の間に肌色が見えた。


「ボールを落とした方が負けるんだ」


ピピーと試合終了のホイッスルが鳴ったとき、ボールは烏野のコートに落ちていた。

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