22話 音駒 の マネージャー
体育館に入って潔子さんと準備をしていると、「苗字!」とコーチに呼ばれたので、潔子さんに一言断ってからそちらに向かうと、武ちゃん先生に音駒の監督さんとコーチさん、それに鉄朗もいた。
「こちらは苗字さんです、今日は音駒さんのお手伝いを頼みました。」
『よろしくお願いします』
「おう、よろしく頼むよ。何かあったら、うちの主将の黒尾に言ってくれ」
にっと笑った音駒の監督の猫又先生の言葉に「はい」と頷いて、ニヤニヤと笑う鉄朗を見て「よろしくお願いしますね、鉄朗先輩」とニヤリと笑うと、先生達が驚いたような顔を見せた。
「お前達、知り合いなのか?」
「(未来の)恋人です」
『ただの従兄弟です』
鉄朗の嘘に更に目を見開いたコーチに直ぐに真実を伝えると、何故かコーチの後ろに見えた田中や西谷がほっとしていた。なんで?
「最初クリアできそうにないゲームでも、繰り返すうちに、慣れるんだよ」
1セット目の序盤、烏野のリードで進むなかとられた、音駒最初のタイムアウトのとき、日向くんと影山くんの速攻を止めるために研磨くんは策をあげた。
デディケートシフト、ブロックを寄せて日向くんの動きを制限し、1人のブロッカーにひたすら日向くんを追わせるその作戦はまんまとはまり、気がつけば、烏野は逆転されていた。
『…音駒のマッチポイント、』
ボソリと呟くと隣に座っていた、猫又先生が小さな笑い声をあげた。
「悔しいかい?」
『はい、でも…まだ負けたわけではありませんし、それに…』
「それに?」
『転んでもただじゃ起きないのがうちの連中ですよ』
「だから、あいつらを転ばせてくれて構いません」と猫又先生に笑った所で、日向くんが打ったボールがブロックにあたり床に落ちた。
第一セットを取ったのは音駒だった。
『お疲れ様、鉄朗先輩』
「サンキュ」
セット間に音駒の皆さんにボトルを渡すとき、最後の鉄朗に冗談っぽく「先輩、」と付けると、鉄朗が思いの外嬉しそうな顔をした。
『…なんか、嬉しそうだね。言っとくけど、烏野のことなめてると痛い目見るよ?』
「ばーか、なめるかよ。あんな面白れぇチームそうそういねぇよ」
じゃあ、なにがそんなに嬉しいのかと、首を傾げると、そんなにあたしにふっと笑った鉄朗。
いつものような意地の悪い笑みでないそれにドキリとしていると、鉄朗の大きな手が頭の上に乗った。
「こういうの、いいよな」
『…こういう?』
「お前が飲み物渡してくれるのとか、」
『…そんなこと?』
思っていた答えと違う鉄朗のそれに疑うように聞き返すと、頭の上に乗っていた手がクシャリと髪を撫でてきた。
「ばーか」
『え?』
「お前にとってはそんなことでも、俺に取っちゃすんげー良いことなんだよ」
ふっと笑った鉄朗に少しだけドキッとした。
こんな顔もするのか、と驚いていると、ピーっと笛がなった。
「じゃ、応援しとけよ?」
『な…私は烏野のマネージャーですー
』
まったく、とため息をついてから皆が飲んだボトルを直してベンチに座ったときちょうど二セット目の最初のサーブが打たれた。
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