20話 黒尾 に 返事
家に帰ると鉄朗は先に帰ってきていて、お母さん達は先にご飯を食べてしまっていたので、私は鉄朗と二人で食べることになった。
昨日の告白なんて嘘のようにいつも通りの鉄朗。
もしかしたら、冗談だったのかとも思ったけれど、冗談でキスされたなんて死んでも考えたくないし、鉄朗はそんな人ではないことはよく知っているので 、小さく頭をふった。
ご飯を食べ終わっ鉄から朗に「お風呂は?」と聞くと、「お前が帰ってくる前に入ったよ」と返ってきたので、遠慮なく入らせてもらった。
『あれ?鉄朗は?』
「さっき上にあがったわよ?」
お風呂からあがると、リビングに鉄朗の姿はなくて、お母さんに聞くと先に二階行ってしまったらしい。
分かった、と返して鉄朗の後を追うように自分も階段をあがって、鉄朗と話をする前にとりあえず髪を乾かそうと部屋のドアをあけると
「おー、あがったか」
『だから、なんで私の部屋にいるの?』
てっきり貸している部屋にいると思いきや、私の部屋にいた鉄朗にため息をつきながら言うと、鉄朗は「ははっ」と何故か笑顔を返してきた。
「なーんか、お前が俺と二人っきりになりたそうだったからよー」
『っ、まあ、間違ってはいないけど…』
「そんなに俺と二人っきりになって何して欲しいわけ?」
ニヤニヤとあらぬ誤解を生みそうな言い方をする鉄朗にそうじゃない、と首をふって真剣に見つめ返すと、ニヤニヤとしていたはずの鉄朗の顔には優しげな笑みが浮かべられていた。
「…どうした?」
『き、昨日の…夜のヤツのことなんだけど…』
「おう」
『…今まで、鉄朗のことお兄ちゃんみたいにしか見てなかったから、その…急に恋人として見るとかはやっぱり無理だと思う』
ギュッと髪を拭くために持ってきたタオルを握ってそう言うと、鉄朗から小さな笑い声が聞こえた。
「なんでお前が泣きそうな顔してんだよ?」
「泣くな、泣き虫」と頬に触れてきた鉄朗の手の優しさになんだかさらに泣きたくなったのを、なんとか止めると、ベッドに座る鉄朗の目をしっかりと捉えた。
『…だから、だからね。今から、ちゃんと見てみる』
「え?」
『もしかしたら時間かけちゃうかもだけど…
それでもいいなら、私、鉄朗のことちゃんと見てみたい。“男の子”として見てみたい』
頬に添えられた手に自分の手を被せると、鉄朗はその手に指を絡ませて逃がさないと言うように腕を引いた。
されるがままに鉄朗の方に体を流すと、座っていたはずの鉄朗は立ち上がっていて、長い腕が私を包んだ。
「バーカ」
『なっ』
「何年待ってきたと思ってるんだよ?…遅くなったって構わねぇよ、お前が俺のこと“男”として見てくれるなら、いくらでも待ってやる」
耳元で囁かれた優しい言葉に震えた声で「ありがとう」と言うと、鉄朗の笑い声が聞こえてきた。
「礼言うくらいなら、キスの1つでもしてくれまそんか、名前さん」
『…このまま顎に頭突きしてあげようか?』
「ゴメンナサイ」
下らないことを言う鉄朗にため息をつくと、笑っていた彼が急に真剣な声色で「でもよ」と言ってきたものだから、「なに?」と聞き返すと、腰に回る手に更に力が入った。
「…せっかく“男”として見てくれるって言ってんだから、俺もアピールくらいさせてもらうぜ?」
『…あぴーる?』
「そうそう、例えば…」
チュッ、と聞こえたのはもちろんリップ音。
ぎょっとして鉄朗から体を離すとにニヤリとした笑みが向けられていた。
「デコチューくらいで、んな驚くなよ」
『お、驚くに決まってるでしょ!?』
「バーカ、俺の本気のアピールはこんなもんじゃねえぞ」
『な!?』
「…覚悟しとけよ?」
またニヤリとした笑みを向けてきた鉄朗に「覚悟なんてしないから!」と叫んで部屋から追い出すと、それでも余裕満々の笑みを浮かべる鉄朗に少しムカついたので、足の指を踏んでやった。
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