18話 澤村 と 見守る
「音駒戦 、スターティングはこれで行く」
午後の練習は音駒戦に向けてのチーム練習、ということで発表されたスターティングメンバー。
分かっていたことだけれど、コートに入るメンバーを見つめるスガさんの姿に胸のあたりがギュッと締め付けられた。
そんなスガさんの隣に寄って、そっと服の裾を掴むと、スガさんは驚いたように私を見てから、静かに笑って、何も言わずにあたしの手を握った。
「旭さん、」
「!!!」
無事練習を終えて、片付けをしていると聞こえてきたノヤの厳しい声。
肩を跳ね上げて驚きながら振り向いた旭さんの姿を見ていると、隣に大地さんが寄ってきた。
『あ、大地さん、あの、あれ止めなくていいですか?』
「大丈夫だ」
笑いながらノヤと旭さんを見つめる大地さん。
そんな彼に倣って私も二人に視線を向けると、ノヤの厳しい言葉が旭さんのガラスのハートを突き刺していく。
「仲良しごっこやってんじゃないんスからね。強い方がコートに立つ!これ当然です!」
ダン!と床を踏みつけながら声を大にして叫ぶノヤに旭さんだけでなく他のメンバーも驚いていると、そんなノヤの言葉をフォローするかのように現れた縁下。
流石二年生常識人の1人、なんて感心するのもつかの間、すぐにノヤがいらん言葉を加えたせいでそこに田中まで加わる始末。
「じょっ上等だコラァ!かかっかかってこいや縁下コラァ!!」
「西谷もういいからやめろってばっ」
縁下が西谷の口を押さえてみるけれど、田中は未だに彼に突っかかる。
可愛そうな縁下…、なんて考えていると、くくっと隣で大地さんが笑っていた。
『もう、大地さん、あれどうにかして下さい』
「いや、あれはあれでいいと思うぞ?」
「旭には俺も言おうと思ってたからちょうど良かったよ」なんて笑う大地さんに小さく息を吐くと、大地さんがポンっと肩に手を置いてきた。
「これから先も大変だな、田中や西谷の御守りは」
『ホントですよ』
「ははっ、まあ俺たち三年が抜ければ、あいつらも嫌でも大人になるさ」
まるで我が子を見るような目で、騒ぎ続ける田中達を見る大地さん。
そんな彼に更にため息をつく。
『あいつらが大人になるのなんて想像できませんよ』
「…まぁ…」
『…だから、3年生にはまだまだ引退してもらうわけには行きません。』
「っ!…苗字…、」
『勝って、勝って勝って勝って、田中たちが大人になる暇なんてないくらい勝ち続けましょう』
「ね?」と笑って同意を求めると、大地さんは「そうだな、」と目を細めて笑った。
それからうるさい田中達を止めるために大地さんから離れた所で、スガさんが大地さんにそっと近づいていたのには気づかなかった。
「…惚れるなよ?」
「少し、危なかったよ」
「無自覚って怖いな、」と大地さんが苦笑いしていたなんて、もちろん知るはずもなかった。
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