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15話 影山 が 送る


スガさんとコーチの話のあと、スガさんはしばらく私を抱き締めていた。
人恋しくなる気持ちがなんとなく分かる気がして、私もただじっとしていると、「…あー…そろそろ飯だぞ?」と言いにくそうに旭さんと大地さんが現れたので、慌てて体を離して、真っ赤な顔のまま二人とも食堂へと向かったのだった。


『あ、…ごめんなさい、潔子さん、準備…』

「澤村から聞いた、大丈夫」

『…本当にすみません…』

「ふふ、だからいいって」


柔らかい笑みを浮かべながら、頭を撫でてくれる潔子さん。
ああ、なんて女神のように優しい人なんだろう、と感動していると、誰かがすっと寄ってきた。


「あ、あの、」

『?影山くん?』

「きょ、今日は俺が送ります、」


「え?」と思って思わずまだ食べている月島くんを見ると、彼も驚いたように目を見開いていた。


「ちょっと待ちなよ、王様」

「あ゛あ!?てめえ、その呼び方!」

「…今日も先輩を送る約束、先にしてるんだけど、」

「は!?」


「ホントですか!?」と目を見開いて私を見てきた影山くんに苦笑いしながら頷くと、影山くんはう、と一瞬言葉を詰まらせた。


「け、けど、てめえは今日はまだ食ってんじゃねぇか、」

「別に戻ってきてからでも食べれるよ」

「「…」」


無言で睨み合う二人にハラハラしていると、「あー、たく、」と大地さんが呆れたように近づいてきた。


「月島、今日は影山に任せろ」

「…」

「飯、ちゃんと食え」


な?と優しく言う大地さん。そんな彼に月島君は影山君を一度ちらりと見てからため息をついて席に戻っていった。


『あ、えっと…じゃあお願いね影山くん』

「あ、は、はい!」










『あ、今日も月が綺麗だね』


昨日と同じように潔子さんとは途中で別れて、今は私と影山くんの二人きりである。
足の長い影山くんが私に合わせて隣を歩いている中でそんなことを呟くと、影山くんもゆっくりと空を見上げた。


「…そっすね」


少しだけ穏やかになった表情で呟いた影山くんにクスリと笑って、そういえば、と思い出したように口を開く。


『この前、及川さんに会ったよ』

「え!?…何かされませんでしたか!?」

『え?特には…あ、でも連絡先は交換したよ』


「優しそうな人だよね?」と同意を求めるように影山くんに尋ねると、何故かため息をつかれてしまった。


『…影山くん?』

「あの、あの人には気をつけた方がいいっす」

『そうなの?』

「はい、」


そんなに危ない人には見えなかったけどな、と首を傾げてみると、影山くんはまたため息をついた。
そんなに影山くんは及川さんが好きではないのかな。


『…私ね、中学の時に及川さんのトスを見て、すごいなって思ったんだ』

「え?」

『だからね、この間あった時、やっぱりちょっと嬉しかったの』

「…そう、なんですか…」


どこか元気がにように返した影山くん。
そんな彼に「でもね、」と続けると、影山くんは少し俯かせていた顔をゆっくりとあげた。


『今は、影山くんやスガさんのトスの方が好きかな』

「え…」

『こういうのって身内贔屓って言うのかもしれないけど、それでも私は二人のトスが好きなの』


微笑みながら影山くんを見ると、影山くんが足をとめたので、私もそれに合わせて歩くのをやめた。


『だからね影山くん、私のできることがあれば何でも言って』


「ね?」と今度は首をかしげて影山くんに言うと、今までポカーンとしていた顔が急激に赤くなった。


「っ、あ、あざっす」


早口でそう言った影山くんはさっきよりも少し早足で歩き始めた。
元気になって良かったとその背中を追いかけて、いまだに赤い影山くんに思わず笑うのだった。

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