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13話 黒尾 と 電話


送ってもらった月島くんにお礼を言ってから家に入って、すぐに自分の部屋へ向かって制服から着替えようとしていると“ブーブー”と携帯のバイブ音が鳴った
表示された名前を確認すると、浮かんだのは怪しく笑う従兄弟の顔、不機嫌さを出すように通話ボタンを強く押して、いつもより低い声をだす。


『…もしもし』

「俺だけど、」


「泊まりのことだけどよ、」と言葉を続けようとした鉄朗だったけれど、私が口を挟んだことですぐに声を飲み込んだ。


『聞いてない』

「…は?」

『うちと練習試合だなんて聞いてない』


怒ったようにそう言うと、「ああ、それか」と呆れたような声が携帯から聞こえた。


「やっぱり知らなかったんだな」

『なんで教えてくれなかったの…?』

「まさか本当に知らないなんて思わねぇだろ」


ニヤニヤと笑う鉄朗の顔が想像できそうなほど意地の悪い声に眉間の皺は濃くなる。


『…だって、練習試合が決まったとき、検査入院してたから…』

「入院?」

『あ、』


しまった、鉄朗に言ったらダメだった。
そう思ったときには遅くて、少し怒気を含んだ鉄朗の声が聞こえる。


「なんで言わなかったんだ?」

『…心配するとおもって』

「馬鹿」


呆れたようにため息を吐いた鉄朗にう、と言葉を詰まらせてから、慌てて話題を戻す。


『そ、それよりもなんで鉄朗たちが来るって教えてくれなかったの?』

「別に相手はどこだろうと関係ねぇだろ
それとも、うちが相手じゃなんか問題があんのか?」

『それは…ない、けど…』


「じゃあいいだろ」と今度は笑った鉄朗。
なんだか上手く言いくるめられた気がして悔しい。


「あ、あと明日そっち泊まるから」

『…うん』

「なんだよ?まだなんか不服か?」


「お互い様だろ?」と宥めるように言われて、小さく返事を返す。


「もしかして、」

『ん?』

「…“敵”が泊まりに来るのは嫌か?」

『な、そ、それは違う!』


いつもと違ってどこか悲しそうに言ってきた鉄朗。
それを否定すると「本当か?」と心配そうに聞いてきた。


『あ、当たり前でしょ!鉄朗が来るの、嬉しいよ!会いたかったもん!』

「本当だよ!」と声をあげると、「くくっ、」と圧し殺したような笑い声。


『…え、』

「い、いや、わりーわりー…あまりにお前が必死になって言ってくるからなんか面白くてよ」

『な!?』


人がせっかく真面目に言っているのに、なんてことを言うんだと、文句を返そうとすると「けどよ、」と鉄朗の声に言葉を飲み込む。


「ありがとな、嬉しいぜ」

『…うん、待ってるね、明日』

「おう、じゃあな」


切られた携帯からツーツーと音が聞こえてから、携帯を閉じた。
最後の鉄朗の声は今までに聞いたことがないくらい優しいもので、少しだけ気恥ずかしかった。

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