10話 相手 は 音駒
『え、今年もGW合宿あるの?』
「あ、そういえば、名前は休みだったもんな」
「あるよ、しかも最終日は練習試合なんだ」と優しく教えてくれたスガさんにポカーンと口をあける。
確かに、休んでから練習に来てみれば、新しいコーチの烏養さんが来ていたりして、驚いたけど、まさか合宿があって、しかも練習試合もあるなんて思わなかった。
『あたし、マネージャー失格ですね、そんなことも知らないなんて…』
「気にするなって!しょうがないよ、休んでたんだから、」
「な?」と笑いかけて頭を撫でてくれるスガさんに目を細めて「ありがとうございます」と返すと、スガさんはまた「気にしなくていい」と笑い返してくれた。
「名前、」
『あ、潔子さん』
「コーチが呼んでるよ」
『あ、ありがとうございます!それじゃあ、スガさん、またあとで、』
ペコリと二人に頭を下げてから、烏養コーチのもとに走ると、後ろで潔子さんのクスリと笑う声が聞こえた。
「…邪魔してごめん」
「大地みたいなこと言うなよ」
振り向けば、赤い顔をしたスガさんと悪戯っこのように笑う潔子さん。
とりあえず、そんな潔子さんの笑顔も素敵だな。
なんて考えたまま、もう一度コーチのもとへ足を進めた。
『コーチ、』
「ん?ああ、苗字」
なにかを考えるような顔をして座っていたコーチに近づいて、呼び掛けるとコーチの視線があたしに向いた。
『なんですか?』
「合宿最終日の練習試合の話は聞いたか?」
コーチの問いかけに1つ頷くと、コーチは申し訳なさそうに眉を下げた。
「それでよ、悪いんだが…当日は相手チームのサポートしてくれるか?」
『相手のですか?』
「マネージャーのいないチームでな、」
「ダメか?」と聞いてきたコーチに大丈夫という意味を込めて笑うと、コーチはホッとしたように笑顔をみせた。
「悪いな」
『いえ、大丈夫です。ところで、相手チームってどこなんですかね?』
首をかしげて尋ねると、コーチは驚いた顔をした。
「なんだ、知らないのか?」
『あ、はい』
「相手チームは、烏野因縁の相手」
“音駒だ”
そう聞いたとき、頭に浮かんだのは不敵に笑う従兄弟の顔だった。
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