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8話 及川 と 遭遇


部活終わりに書店に寄って、最近ハマっている漫画の最新刊を手に取った。良かった。これ、続き気になってたんだよね。「ありがとうございました」という店員さんの声を聞きながら外へでると、遠くの方で人だかりを見つけた。
中心にいる人物は周りを囲む女の子たちよりも頭1つ分高くて妙に目立っている。


『あ、あれって…』


及川さんだ。思わず足が止まった。

中学の頃から有名なセッターだった彼はバレー界では有名だ。まあ、もちろんこっちが一方的に知ってるだけなのだけれど。
それにしても。


『モテるなー』


困ったように女の子たちに笑顔を向ける及川さんを見ながら、ボソリと呟く。
あれだけルックスも良ければ当然か、なんて思っていると


『あ、』

「…あれ…?」


目があった、結構バッチリ。
一瞬ドキっとしながらも外されない視線に無視も失礼だと思って、一礼すると、驚いた顔の及川さんがいた。

何にそんなに驚いたのかは分からないけれど、このままここにいるのも気まずい。
顔をあげると、止まっていた足を動かして、早々にその場を後にした。










「ちょっと待ってっ!」

『え?』


町から少し外れて、あまり人がいない所で後ろから声が聞こえた。
もちろん周りに人はいないので、自分が呼ばれているのだと思って振り向くと、少し早歩きでこちらに向かってくる及川の姿が見えた。


『え、あ、あの…』

「苗字名前ちゃん、だよね?」


え、なんで知ってるんだろう?いきなり名前を言われて目を丸くしていると、それに気づいた及川さんがクスリと笑った。


「飛雄が君の試合見てるのを一緒に見てたことがあるんだ。それでパンフレットにね名前が書いてあったんだよ」

『あ、』


「なるほど」と笑うと、及川さんも一緒に微笑んでくれた。


「ところで、さっきお辞儀してくれたよね?俺のこと知ってるの?」

『え?もちろんですよ、及川さんですよね?』

「うん、そうだよ。…もしかして、名前ちゃんも俺のファンだったりする?」

冗談っぽく聞いてきた及川さんに、少し考えてから頷いた。


『はい』

「…………え?」


ぎょっとした及川さんの目が私を見た。
あ、この人こんな顔もするんだ。
なんて考えていたけれど、及川さんはすぐにいつものように笑顔をみせた。


「それは嬉しいなー!」

『そうですか?』

「うん。こんな?可愛い子が俺のファンだなんて、嬉しいよ?」

『あはは。及川さん、お世辞が上手いですね』

「苗字さん、鈍いんだね…」


鈍いって何が?数回瞬きを落として及川さんを見つめると、「気にしなくていいよ」と笑った及川さんはヒラヒラと右手をふった。
少し不思議に思いつつ、“ファン”と言う及川さんの言葉に、ぼんやりと中学時代の彼のプレーを思い出してみた。


『…中学のとき、試合を見させてもらいました。あのとき、セッターをしてる及川さんを見て、素直に凄いって思ったんです』

「え、」

『スパイカーに100%の力を出させるトス。チームプレーが要のバレーでは凄く大切な事ですけど、出来るかどうかは別です。だからそれが出来る及川さんは凄いなって』


「それからファンなんです」と笑うと、及川さんの頬が少しずつ赤く色付いていった。大丈夫だろうか?眉を下げて及川さんと目を合わせると、心配とは裏腹に、及川さんは顔を綻ばせた。


「…ありがとう、名前ちゃん」

『え?』

「…トス、褒めてくれて、ありがとう」


フワリと笑った及川さん。
ルックスのいい彼の笑顔はあたしを赤面させるには十分だった。


『い、いえ、そんな…お礼なんて…』

「…あ、そうだ、名前ちゃんて高校どこなの?」

『え、あ、…烏野ですよ?』


及川さんの急な質問に答えると、及川さんは一瞬え、と動きをとめた。


「…烏野って…飛雄と一緒なの?」

『飛雄って…影山くんですか?
もちろん一緒の学校ですよ?』


「ふーん」と面白くなさそうな顔をした及川さんに首を傾げると、及川さんはまた笑顔を浮かべた。

「…名前ちゃん、」

『はい?』

「メルアド教えてくれない?」


にこりと笑った及川さんはいっしょにてを差し出してきた。


『…メルアド、ですか?』

「うん、ダメかな?」


あたしのメルアドでいいなら、と差し出された手に携帯をのせると、ありがとう、と及川さんは笑った。


「よし、登録完了。じゃあ、また連絡するから、俺のも登録しといてね」

『あ、はい、それじゃあ』


ペコリと頭を下げると、及川さんは手をふってくれて、それからそれぞれの帰路に着いたのだった

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