5話 月島 が 可愛い
休日の部活の練習が終わって、潔子さんと更衣室で話しているとき、ふと話題が最近できたケーキ屋さんのことにうつった。
ここからそう遠くない所にケーキ屋ができたらしい。
『潔子さんも一緒に行きませんか?』
「ごめんね、今日は用事」
それは残念。「分かりました、じゃあまた明日!」と笑って校門で潔子さんと別れる。
別に甘いものが特別好きと言うわけではないけど、部活が終わったこの時間は口が甘味をほっしている。
今日は幸いにも部活が早く終わったので、まだ時間がある。1人でも行ってみようかな。
『どんなケーキ屋さんかなー』
ワクワクとした気持ちで足を進めると、ケーキ屋の前に最近見慣れた後ろ姿を発見した。
『…月島くん?』
「!っ、苗字先輩…?」
彼にしては珍しく驚いた顔をしたので、思わず目を丸くして見返すと、月島くんはハッとしたように我に返り、背を向けて歩いていこうとした。
『ええ!?ちょ、ちょっと月島くん!?』
「…なんですか?」
彼の服の袖を掴んで引き留めると、罰が悪そうな顔をして振り替えってくれた。
20センチ以上の身長差に自然と見上げるような形になる。
『えーっと…』
「…」
ひき止めたのはいいものの、その先は考えていなかった。
どうしようかと考えていると、さっき彼がケーキ屋の前に立っていたのを思い出した。
『ねぇ、月島くん』
「?」
『実はね、私、あそこのケーキ食べに来たんだけど…1人じゃちょっと入りづらいんだ』
「だから一緒に食べてくれない?」と首を傾げて頼むと、月島くんはまた驚いた顔をしてから、少しだけ頬を染めて顔をそらした。「もちろん、先輩のおごりですよね」と言ったので、笑って頷いた。
『月島くんて、ケーキ好きなの?』
テーブルに座って向き合いながらケーキを食べている私と月島くん。
お客さんはほとんど女の人かカップルばかりで、確かに月島くんが1人で入るにはキツイ。
「…何か文句でもありますか?」
ギロっと睨んでくるように言った月島くんに、苦笑いしながら首をふった。
『全然、むしろいいんじゃないかな?』
「…」
『疲れた体には甘いものが一番だよね』
「…そうかもしれませんね」
そう言って月島くんはまた、ケーキを食べ始めた。
そんな彼にあたしはまた笑ってしまった。
今日だけで二回も月島くんの赤くなる顔を見れたなんてかなり貴重だ。
『あー、美味しかった』
お目当てのものを食べれて満足し、そろそろ帰ろうと月島くんに言うと彼はゆっくり席をたった。
そんな彼に続くようにあたしも席をたってレジに向かう。
値段を聞いてから財布を開けようとしたとき。
『え、』
横から伸びてきた腕が先にお金を払ってしまった。
『え、月島くん?』
「…ほら、会計終わったんですから、さっさと出ますよ」
混乱しているあたしを月島くんはほっておいて、さっさと店の外に出ていってしまって。
『あ、ちょ!』
慌ててついていくと、月島くんは一旦止まって、私が追い付いたのを確認するとまた歩き始めた。
『あの月島くん、お金』
「別にいいですよ、あれぐらい」
『でも、後輩に奢らせるのは…』
「…」
なんとかしてせめて自分の分だけでも払わしてもらおうと考えていると、月島くんが小さくため息を吐いた。
「お礼ってことにでもしといて下さい」
『…お礼?』
「なんの?」と聞くと、月島くんはまた顔を背けた。
「…あそこに連れてってくれたことですよ」
『え?』
「っ、ほら、早く歩いて下さい。おいていきますよ」
『あ!ちょ!』
「待って!」と言って月島くんを追いかけた。
そのときは、本日三度目の彼の真っ赤な顔をみることはできなかった。
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