「見学に来ませんか?」
『嵩原さんって、何処の学校から来たの?』
『部活は何かやってた?』
『彼氏はいるの?』
初日は予想通り、クラスメイトからの質問の嵐だった。
まず、この時期に転入生が来るということ自体とても珍しいのだろう。年度の初めとはいえ、もう三年。進路がかかった大事な年なのだから。
しかし、転入してから三日もすると、クラスメイト達の対応も随分と落ち着いてきた。
大して面白みの無い人間だと判断されたのか、もう質問攻めにされるようなことは無い。かと言って所謂ハブにされている訳でもないが、大抵一人でいることが多くなった。多クラスから転入生を見物しに来る生徒も随分と減った。
そして慈海は今、放課後の人気の無い教室でぼんやりと茜空を見つめている。
「……帰りたくない」
ぽつりと、吐息混じりに言葉を吐き出す。
慈海以外に誰もいない教室内に、思いの外声が響く。
「じゃあ、バスケ部の見学に来ませんか?」
「――えっ、」
自分しかいないと思っていた空間に、自分以外の、知らない声が響いた。
声のした方を振り返ると、いつからそこに居たのか、存在感も性格も控えめそうな男子生徒が此方を見ていた。ジャージを着ているので、学年は分からない。
「えー、っと、」
「あ、すみません。僕は二年の黒子テツヤです」
慈海が返答に困っていると、何故か急に自己紹介をされた。彼はひとつ下の学年らしい。
「えっと、今年転入した三年の嵩原慈海です」
相手に自己紹介をされたので、此方も同じように返す。
黒子君は「宜しくお願いします」と言って、礼儀正しく会釈をする。慈海も再び同じように返した。
「………………」
「………………」
会話、終了。
会話が途切れても、黒子君はその場から動かない。どうしたのかと思って首を傾げると、「来ますか?」と主語も無く問いかけられた。
「え?」
「バスケ部の、見学に」
そうだった。元々、部活の見学に来ないかと話しかけられたのだった。急な自己紹介が始まってすっかり忘れてしまっていた。
「……今日は、遠慮します。また今度見学させて下さい」
「そうですか」
少し考えてから誘いを断ると、黒子君は特に残念がるでも無く淡々と答え「では僕は部活に戻ります」と言って去って去って行った。
「…………そういえば、何で三年の階にいたんだろう」
2014.01.14
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