「丁寧な言葉遣いを心がけている最中なんです」
「そんじゃ、ギャラリーに案内するッス」
急に話しかけられた為、彼の言葉を理解するのに数秒かかった。
反応の鈍い慈海を不審に思ったのか、黄瀬が「大丈夫ッスか〜?」と顔を覗きこんでくる。紫原程ではないが彼も背が高いので、腰を折るように屈む。まるで子どもと大人のようだ。
「あ……ごめんなさい。少し考え事をしていて」
「ふーん、ま、いいッスけど。そういや転校生らしいッスね、センパイ」
軽く言葉を交わしながらギャラリーに上がる階段へ向かう。体育館内からは行けない造りのようで、一度外に出てから二階に上がる。
どうやら先程の虹村との会話の中で、慈海は転校してまだ日が浅いため、ギャラリーへの上がりかたを知らないだろうから教えてやれという指示を受けたらしい。
「にしても、何で俺だけ怒られんスかねぇ〜。黒子っちも緑間っちもいつの間にかいねぇし!」
愚痴を溢しながら隣を歩く黄瀬を見上げる。あまり不服そうな、反抗的な雰囲気は無く、愚痴を言いつつも素直に指示に従うあたり、虹村は主将として信頼されているのだろう。
「ごめんなさい、邪魔してしまって」
「え?あぁ、大丈夫ッスよ。主将もコーチも許可してるみたいだし。写真部の活動として来てるんスよね?」
「はい」
問われたことに答えると、不意に黄瀬が何やら考え込み始めた。
疑問に思って「どうかしました?」と聞くと、「それ、」と返された。
「え?」
「いや、ずっと思ってたんスけど。何で敬語なんスか?後輩ッスよ?俺」
「……黒子君も敬語だと思いますけど」
「黒子っちは常に誰に対してもじゃないスか」
まるで「あんたはそうじゃないだろ」とでも言うような口振りだ。初対面なのにどうしてそんなことを言われるのだろうか。
「私が、普段は敬語じゃないと思うんですか?」
「いや、だって悲鳴が『ぎゃっ!!』だし」
「それは言わないで下さい!」
まさかここで悲鳴の話をされるとは。それにしても、悲鳴に品がない人間は皆言葉遣いにも品がないという考えはいかがなものかと思う。慈海は言葉遣いも自信は無いが。
「……今、丁寧な言葉遣いを心がけている最中なんです」
「えー、でも、普通のがいいと思うッスよ?写真部の部長と話してる時なんか、今よりずっと人間らしいし」
人間らしい、とはどういうことだろうか。言葉遣いを気にかける慈海は、逆に人形のようだとでも言いたいのだろうか。
それより、黄瀬が慈海と千紗の会話の様子を見ていたというのが不思議で仕方がない。千紗はいつの間にか体育館からいなくなっていて、黄瀬達がやって来た時は既に慈海一人だったはずだ。
正直黄瀬の発言は疑問な点ばかりだが、面倒なので触れないことにした。
「親しい相手には多少口調もフランクになりますけど、普段はこんな感じですよ。敬語は身に付けておいて損は無いですし」
「ふーん」
自分で話を広げておきながら、黄瀬は適当な相槌を打ったきり黙りこんだ。
そうこうしているうちに、ギャラリーへの階段を上りきる。そういえば、口頭での説明でも分かるだろう道程だったにも関わらず、わざわざ案内してもらってしまった。
「わざわざ案内して下さってありがとうございました」
「え?ああ……そんなのはいいんスけど。うーん、ま、いっか」
黄瀬は何か考える様子を見せたかと思いきや、突然「やべ、今主将と目合った」と言って顔を青ざめさせた。
体育館内を見てみると、確かに虹村が「油売ってないで早く練習に戻れ」とオーラで語っていた。慈海にも分かる気迫だった。
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今のところ黒子と虹村と黄瀬しかほとんど喋ってない。皆出てこいや←
2014.01.19
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