そぞろ迷い子(いち)





買い物籠を抱えた私は、島田さんに書いてもらった覚え書きを手に、町の真ん中で途方にくれていた。

(どうしよう…)

右を見ても、左を見ても、自分が一体何処に居るのか全くわからない。
これは、そう、いわゆる迷子である。


「え、だってあっちの道から曲がったからさっきの店に着いたでしょ…。じゃあこの通りをこっちにいけば…あれ、あれ…?行きすぎた?間違えた?」


こんな事ならば、一緒に行こうかと心配してくれた尾関さんの申し出を断らなければ良かった。
今日はいける、と思ったのは間違いだったのかもしれない。


買い物をして早く帰らなくてはいけないのにこの体たらく。
私はどうしてこう、些細な仕事すらマトモにこなす事が出来ないのだろうか。
はぁ…。

肩を落としながらも、籠の中を確認する。
覚え書きからの漏れはないだろう…とは思えども、こんな私だから何か重大な事をやらかしてはいないだろうかと不安になったのだ。


「…だ、大根、人参、…葱と…油揚げと…」

「あとお饅頭は?」


「えっ? お、お饅頭はまだ買って…、…ん、お饅頭?」


突然かけられたその声に、私は顔を上げた。
買い忘れてた?と一瞬悩んだけれど、お夕飯の為のお買い物なのだからお饅頭はいくらなんでもおかしい。
紙から顔を上げて辺りを見渡せば、ちょうど私の後ろに見知った人物が佇んでいた。


「…おっ、…沖田さん! な、何故ここに…」

「僕は非番でぶらぶらしてた帰り。 そういうサチちゃんこそ、こんなとこで何やってんのー?」

「すすすみません、私はお買い物を頼まれてまして、あの、その使命を果たさんとしている最中です…っ」

「…、買い物は全部済んでるよね」

「えっ? えっと、あ、えぇっと…。は、はい、終わっています」

「じゃあ一緒に帰る? 君、さっきからうろうろしてさ、明らかに迷子だったでしょう?」


にこりと笑った沖田さんに、思わず顔がひきつる。

(ば、ばれていた…!)


恥ずかしさに赤面すれば、彼は笑ったまま私の手から買い物籠を奪い取った。
そして空いた手を、有無を言わさずに絡めとる。


「ほら、さっさと帰ろー!」

「うぁっ、すみません、有難うございます…!」

「あはは、何で謝るの?変なのー」


そうだ、最近は色んな方に謝るなと注意されているじゃないか。
それを思い出して、申し訳なさで俯く。
尻窄まりの「すみません」は、果たして沖田さんに届いたのだろうか。

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