そぞろ迷い子(に)



絡んだまま引かれないその腕を不思議に思った刹那、沖田さんは俯いていた私の顔を、身体を曲げて下から覗きこんだ。


「…っ!」

「あ、泣いてるのかと思った」

「す、すみません。泣いてはない、です」

「それなら謝らなくてもいいのに。弱気でいると、漬け込まれるよ?」

「は…、はあ、すみむうっ?!」


思わず謝ろうとすれば、容赦なく頬を両側から摘ままれた。
沖田さんの大きな手で押さえ込まれれば、安易に話し出す事すらままならない。

じとりと見つめる沖田さんの眼に負けて、私は視線を逸らした。


「う…うむぃむふぅ…」

「え、この状態でも謝ろうとしてる?」


信じらんない。と小さく呟く沖田さんに、私は微かな声で呻いた。
すみません、こういう性格なんです…。


「まあ、…いいか」

「むぁ…っ。 お、沖田さん?」

「とりあえず、早く帰ろうよ。」


ほらほら、サチちゃん行くよ。
手を引いていく沖田さんに着いて歩けば、沖田さんの足取りは益々軽やかになる。

からん、と下駄が鳴いた。
風に沖田さんの長い髪の毛が翻った。

そんな一枚の錦絵みたいな綺麗さに、思わず見とれてしまう。


「山崎さんが待ってるよ、きっと」

「…え、ふぇっ? な、ななな、なぜ山崎さん??」

「山崎さんにね、サチちゃんはおバカさんだから何かおかしな事をしてたら教えてあげてくださいって言われた事があるんだ」

「…や、山崎さんったら、相変わらずひどい…。ご迷惑をおかけしてすみませんでした、沖田さん」


改めて謝れば、沖田さんは不服そうに一言溢す。


「謝んないで、有難うって言われた方が嬉しいなー」

「へ…?」

「だから、有難うって言ってよ。ほらほらー!」

「…っあ、あり、がとう、ございます」



急かされて、私はその言葉を口にする。
すると沖田さんは満足そうに笑ってくれた。



「あはっ、どういたしまして!」


眩しい笑顔に、思わず顔を顰(しか)める。
ぐいぐいと引かれた手に抗わずに足を動かせば、沖田さんは本当に楽しそうに笑っていた。


手を繋いだまま屯所に帰れば山崎さんが出迎えてくれて、なんだかそれが嬉しかったのは内緒だ。



To be continued.


改めて、『有難う』の重要性を考える。
ヒロインだって有難うを言ってない訳ではないんですけど、それよりすみませんって言っちゃうので…。


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