楽にはならないもの(ドレミで8のお題)

※キャラクターが一切出てきません。
※他キャラの固定ヒロインが名前変換無しで出てきます。




ごつ、とまな板が鳴った。


「ああ〜……」

落胆の声が漏れた後に、涙混じりの声が次いで聞こえる。
ごめんなさい、としょげた少女の指は、いたる所に応急処置の布が巻かれていた。


台所に居るのは二人の少女。
一人はおかっぱでツリ目の、新選組で賄い方をしている、亜依だ。
そしてもう一人は、長い髪を不器用に後ろで束ねたなまえ。
なまえは、いつもは下ろしたままの髪を後ろに纏め、慣れない襷掛けまでして料理の特訓をしていた。
その料理の講師に選ばれたのが、亜依だった。
だった、のだが。



「…もうヤダー!かぼちゃ固いんだもん!」

「かぼちゃが良いって言ったのはなまえちゃんでしょう? ほら、もっと小さくなれば切りやすくなるから、頑張ってみて」

「むぅ……ッ」

「辞めたいなら辞めていいよ?でも『永倉先生に手料理食べさせたい』って言ったのは、そっちじゃないの。」


「そうだけど!そうなんだけどー!」


むくれるなまえの隣で、亜依は切り掛けのかぼちゃに包丁を入れた。
ストン、とかぼちゃはふたつに割れる。


「何で何で?何で亜依ちゃんはパカッてなるのになまえだとグッて刺さっちゃうの?」

「…力のかけ方の違いだと思うわ、多分。」

ちから?と首を傾げるなまえ。それに頷くと、亜依は手の平を包丁に見立てて説明始めた。

「なまえちゃんは全体に力をかけて下ろすでしょう? そうじゃなくて、一回包丁の先を刺してから柄を下ろすの」


こうやって、と包丁を構えてみせる。
かぼちゃをスタンと二つに切れば、なまえは新しい玩具を見るように、キラキラと目を輝かせた。

 
「おぉー」

「一気に切ろうとするから挟まるのよ」

「わかった、次は頑張る!新ちゃんにご飯作ってあげるんだもん!」


よーし、と包丁を構えて、先程半分に切ったかぼちゃにもう一度刃をあてがう。

「えいやぁ!」


意気高くかぼちゃに向かったなまえだったが、かぼちゃに包丁を刺した瞬間、ぴたりと動きを止めた。
正確には、止まらざるをえなかったのだが、亜依にそれはわからない。

眉間にシワを寄せていくなまえに、亜依は怪訝そうにその顔を覗き込んだ。


「ふぇえ…亜依ちゃぁん、抜けなくなったぁ…」


瞬間、そんな泣き言を漏らす。
なまえは涙で瞳を潤ませて包丁をかぼちゃごとまな板にたたき付けた。

がつがつと、鈍い音がする。


(あぁ、もう。)


亜依は深く溜め息を吐いて、眼を閉じた。
この子に料理は到底無理な事なのだと、一人ごちる。

結構な時間をかけてもかぼちゃ一個しか切れない生徒に、先生はどうしたものか。


「むー…、よぅし次は大根だ!新ちゃんに煮物作ってあげるんだもん!」


「はいはい…」


なまえ負けない!と意気込む彼女の手に、果たして美味しい手料理が乗る日は来るのだろうか。


楽にはならないもの


(永倉先生、ご愁傷様です…)

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