ファイト、と叫ぶ(ドレミで8のお題)

 



「だからさ〜、ホントお願いしますよなまえさん」

「嫌、です。」

「そこを何とか!」

「なりません。絶対に嫌です。」



必死に手を合わせて、頭を下げる銀八先生。
「なまえさん、いや、なまえ様!」と喚く先生の声に、周りにいる生徒が興味津々にこちらを振り返る。
そりゃあそうだ、生徒に先生が必死に頭を下げる光景なんて、そうは拝めないだろう。


「…先生、頭を上げて下さい」

「え、やっと行ってくれる気になった?!」

「嫌です、高杉君の家になんて死んでも行きたくありません。」

「じゃあ頭上げらんねぇよ!」


銀八先生はばっと頭を上げたかと思うと、私の否定を聞くや否やまたもや勢い良く腰を折る。
あのスピードだと、腰を痛めそうでならない。


(いや、痛いと訴えられても無視するんだけど。)


「というかね、先生、なんで私が行く事になってるんですか」

「だって高杉に『自宅までプリント持ってくぞ』ってメールしたら、なまえがいいってご指名があったんだもん」

「『もん』じゃねぇよ、四捨五入したら三十路のクセに。」


一瞥して言い放つ。
うっと短く漏らした先生は、バツの悪そうに頭を掻いて身体を起こした。


「…私、高杉君と仲良い訳じゃ無いんですよ? ただ席が隣り合わせという共通点しか無いんです。それなのに私が行かなくちゃならないなんて、余りにも理不尽すぎると思いませんか」


「高杉が直々になまえに来てほしいって言ったんだから、仕方ないじゃねーか。可愛いワガママだろ、行ってやってくれよ。」

「可愛くねぇよふざけんな。 …じゃなくて、そんなメール無視して、先生が行って下さい」

「そんな事したら高杉に殺されるからヤダ」

「私だってヤなんですってば!」


埒が開かない討論に、私は嫌気がさしてきた。
先生の顔を見れば、先生も大分イラついているようで、これはきっともうちょっと押せば「もういい、俺が行く」という展開に押し切れる気がする。

(よし、頑張れ私)



「頼むよ、ホントさぁ。」

「嫌です無理です。今日私は休みだったコトにしてください。」

「それこそ無理ですー。高杉にはなまえが学校来てるって割れてますー。」

「じゃあ早退…」

「だから、さっきのメールの返信に、『じゃあなまえに頼んでみる』って送ったんだってば。」


「ふざけんな天パ教師!そんなトコばっかちゃっかりしやがって!!!!」


ほら見て、と差し出された銀八先生のメタリックブルーの携帯を思い切りひったくり、これまた思い切り床に叩き付ける。
カバーやら電池パックやらが外れた携帯と、断末魔の叫びを上げた先生を見遣り、私は昇降口へ走り出した。


「さよなら先生!私先生の事は二日位忘れません!」

「おかしくない?その挨拶おかしくない?ねえなまえ! せめて一生忘れないぐらいは言ってェェ!!」

「悔いのないように逝ってくださいね!銀八先生ー、ファイッオー!!!」




行くの字違うゥゥと叫ぶ声を背に受けて、私は大きく手を振った。


ファイト、と叫ぶ


(頑張れ先生!)

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