誰かの為の幸福
(幸福で5のお題)
幸せ?
幸せ。
なまえの手にかかれば、俺達二人はずっと幸せになれる。
君の為の幸福なまえが嬉しそうに微笑んで、隣に座っている俺との距離を縮めた。
「そんなに幸せ?」
「うん!だって今日はお天気だし、それに新ちゃんが隣にいるし!」
「俺もなまえがいるから幸せだヨ」
寄り添って笑って、ただ普通に一日を過ごす。
それがすごく幸せだと、君は甘く笑ったのに。
「家の事、忘れるぐらい……凄く幸せ。」
なまえは少し哀しそうな顔をしてから、寄り掛かっていた俺の肩から離れた。
「……なまえ?」
なまえは時々、俺の知らない顔をする。
ひどく大人びた、感情の薄い表情。
それは、彼女が女郎の隠し子で、育ててくれた義理の両親から逃げたという事実を、自分の置かれたその状況を、気にしているからだ。
「……なまえは、遊女じゃないヨ」
「うん…」
「なまえは、俺の側に居てくれればいいヨ……」
「…うん…大丈夫」
女郎の隠し子だったなまえは、その遊郭の主人の知り合いの家に預けられた。
だからなまえは、遊女でも禿(かむろ)でもなく、普通の娘として育てられていたんだ。
それなのになまえは置き屋に売られそうになって、必死に逃げて来たのだと聞かせてくれた。
今は、母親の知り合いがなまえを身請けしてくれたらしく、島原の側に住んでいるのだけれど、けれどそんな状態になるまで一体どれ程の苦労を重ねてきたのだろう。
「やだ…どうしてそんな顔するの、新ちゃん」
「……え…?」
「幸せ、逃げちゃうよ」
私の幸せは、新ちゃんの笑顔なんだよ?と、なまえは笑った。
なんて強いんだろう。
こんなに小さくて、こんなにか細いのに。何処にこんな芯の強さが隠れているんだ?
なまえは笑って俺の手に指を絡めた。
「ごめんね、変なこと言って。でも、新ちゃんの笑顔は、私の幸せなの。だから、新ちゃんは笑ってて?」
そしたら、私も笑えるから。
ふわりと笑みを浮かべて、なまえはそう呟いた。
絡めた指から伝わる熱に、俺はゆっくりとなまえを感じる。
「一緒に幸せになろう、なまえ。俺達二人なら、絶対幸せになれる」
目を伏せて、そう噛み締めた。
「…えへ、あったりまえだよー、新ちゃん!」
にっこり笑って、絡めた指を強く握りしめる。
なまえの手にかかれば、俺達二人はずっと幸せになれるんだ。
ずっと、ずっと。
end
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