ヘンゼルとグレーテル

03


 けれどヘンゼルはグレーテルの頬に触れると、にっこりと笑いました。

「大丈夫だよ、グレーテル。僕に任せて」

 ヘンゼルは父とまま母の話をこっそり聞いてから、外へ行くたびに白い小石を集めていたのです。
 野苺を摘みに森へ入る道すがら、ヘンゼルはそれを落として歩きました。

 そして、野苺に夢中になってまま母を見失うと、泣き出しそうなグレーテルにキスをして、優しく言いました。

「夜になれば帰れるよ」

 すると、どうでしょう。夜になって月が出ると、白い小石が光を反射して、道を作り出したのです。
 ふたりはその道を辿って、家まで帰り着きました。

「ねぇヘンゼル…」

 ドアを開ける前、グレーテルが囁きます。

「こんなことするなんて酷いよ。おかあさんを、こらしめてやらない?」

 にやっと笑うグレーテルの思惑をすぐに察したヘンゼルも、にやっと笑い返しました。

 驚いたのはまま母です。森へ置き去りにしたはずのふたりが、平然と戻って来たのですから。
 父はまだ仕事から帰って来ていません。

「ただいま」

 笑顔のふたりに、まま母は思わず後退り、それから引きつった笑みを向けました。

「お、おかえり。遅かったな…」
「ねえおかあさん」

 グレーテルはまま母に駆け寄ると、左脚にしがみつきます。
 反対の脚にもヘンゼルが同じようにします。

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