キスペット。

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「君は勿論、なにも悪くない。だけど俺は中学の学生服着て顔から汚い白濁滴らせて呆然としてる少年が、脳裏にこびりついてね。たまたま──知り合いからキスペットの話を聞いてサイトを見せられたとき、君だって判った」

 ああ、君はあのとき『壊れた』んだと思ったと、知己はそう言った。

「『壊れた』君なら、俺の歪んだ欲望を満たせるかと思ったんだよ。…実際、君は見事に『壊れ』てたしね」

 忘れたいくらいに、記憶から抹消するくらいに衝撃で嫌悪を抱いた、男とのキスも平気で出来てしまうくらい、自分のことを蔑ろにするような存在になっていたのだと。
 そう、知己が続ける。


「判る? あのときの汚らしい変態よりも酷いことを、俺は今、君に出来る状況なんだよ。そして俺は、それを…したいと、思ってる」


 手は縛られていて、相手のテリトリーである自宅の中。
 ほとんど裸に剥かれて唇で触れられて、自らの白濁を顔に受けさせられて。

「…、…」

 けれど海晴は首を傾げた。


(ひどい、こと)

 実感が、湧かない。


 知己の方が泣きそうな顔をしているくらいだ。
 恥ずかしさでしにそうではあったけれど、与えられる快感は紛いようもなく本物だった。

「…ふ。ほんとに『壊れ』ちゃったんだね、海晴君」

 応えられない海晴に苦笑して、優しい仕草で知己は海晴の顔をティッシュで拭ってくれた。それから手首を縛めていたツナギを外しクッションも取る。

「…時間だよ、ハル君」
「ぇ。あ」

 慌てて時計を見れば、終了時刻の5分前。顧客が満足したと言うなら、早く切り上げることは勿論よくある話だ。

 どこか釈然としないまま、それでも長居するわけにもいかず、のろのろと服を着込む。


「…ありがとう、ございました」
「うん。…ハル君」

 玄関で、そう頭を下げた海晴の顎を掬うようにして、知己がキスをしてきた。
 唇を食んで、たっぷりと唾液を纏った舌が海晴の舌に絡んで擦れる。ヌチュ、と卑猥な音がして、ゾク、と下半身に甘い疼きが走った。

「ん…は…っ」
「これを最後に、男の客は取らない方が良いよ。確実に、キスだけじゃ済まないから」

(…あんたくらいだよ、男の客なんか)

 海晴はなにも答えずに一礼して、2回目の営業を終えた。

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