キスペット。 08 「…は、は、い」 以前よりも迫って来られたことに、僅かの動揺も隠せない。ゆっくりと肩に手を添えられて、押し倒されながら、唇が重ねられる。 まるで甘く恋人がじゃれ合うように、ソファの上で抱き合って交わされるキス。 何度も角度を変えて──以前に海晴がやったように唇を食んで、彼の舌が蛇のように唇の奥へと進んで濡れた舌に絡みつく。ぞく、と震えが走る。 少しだけ躊躇ってから、そうっと海晴は覆いかぶさる知己の肩に腕を回した。 少しだけ知己の目が見開く。 そして少しだけ、彼は笑ったようだった。 「ん…ん、む…」 ちゅ、…くちゅ、…ぢゅるっ… はあ、と熱い吐息が混ざる。大丈夫。気持ちいいけれど、割り切れる。大丈夫だ。 熱っぽい知己の眼が、彼も気持ちいいのだろうと教える。 唇を離して、息を整えて。近い距離で、海晴の鼻先にちゅっとキスを落として、知己が困ったように笑う。 「まずいね、君の仕事は」 「は…なにか…?」 「勘違いしてしまいそうだ。もっとキスをして、もっと君の色んな顔が見たくなる」 「…」 よく言われる台詞だ。だから3回が限度の、それだけの付き合い。 逆を返せば、3回までの時間内であれば、何度キスして勘違いしたって、構わないんじゃないか。海晴は思う。 「…なら、もっとキス、しましょう…? 俺は、その為に居るんですから」 彼の頬に手を伸ばして、そう言った。 知己はやはり困った顔のままで笑って、「判った」と告げると、ちゅ、と海晴の唇を吸った。 そして。 じぃいっ 「っ? ちょ、知己さ…っ」 「キスしかしないよ。この前と同じだ」 「…っ!」 ツナギのジッパーが乱暴な手つきで下ろされる。この間と違って、知己の手はパンツではなくシャツをめくり上げた。 「ゃっ…と、知己さんっ」 「君はちょっと隙が多過ぎるね、ハル君。だからって手加減もしてあげないけど」 腹からつぅうっと舐め上げられて、「ひっ」と引きつった声が出た。 暴れようとしたが、脚の間に知己の膝があって身動きがうまくとれないどころか、その膝がぐぅっ、と股間にじわじわ圧を掛けてくるものだから、下手に動くことすらできない。 「ぁ、あぅ…っ」 「ハル君。俺は女性とは違うんだよ。いや、君を欲しがってるという意味では、今まで君を買った女性と同じかもしれないけどね。俺を勘違いさせて、良いことなんてひとつもないよ」 [*前] | [次#] 『雑多状況』目次へ / 品書へ |