勝敗

02


 離れたところで見ていても、馬を降りた瞬間や、剣技の最中など、大きな動き――特に上半身の――をしたときに、胸を押さえるようにする。
 調練の終り際、またアーサーの近くに来て下馬したときには、耳まで赤くしてうずくまってしまった。

「師団長?!」
「…っ、らぃ、じょう、ぶ…」

 心配した部下達が集まって来て、サリは少ししてから素早く立ち上がった。
 頬はまだ桜色だが、穏やかに微笑み、手を挙げる。

「迷惑を掛けてしまってすまない。私のことは心配いらない。馬の世話をして、各自解散!」

 いつもと同じ号令に、全員が機敏に動いた。サリもゆっくり上級将校用の厩に向かう。
 アーサーはその後を追う。もうひとりの副師団長は先に行ったようだ。
 サリが少しだけ振り向く。

「何をしている、アーサー。号令には迅速に応じろ」
「師団長こそ、その身体で馬の世話なんて出来るんですか」
「っ!」
「胸が悪いんですか。アシードの世話は俺がしておきます。早く休んで下さい」

 サリの愛馬である黒馬のアシードの手綱を取ると、サリはようやく観念したように手綱を放した。

「…すまない、アーサー。アシードも。…今日だけだ。こんな異変…すぐ、治す」

 力なく笑って、サリは営舎の方へ歩いて行った。




 馬の世話を手早く終らせ、アーサーはサリの部屋を訪ねた。

「アーサー?」

 きょとんとして扉を開けた彼の顔を、なんだか可愛いなんて思ってしまった。

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