勝敗 01 ここ2、3日前から、師団長・サリの様子がおかしい。そして今日は特におかしい。 副師団長のひとりである、アーサーは思う。 今も隣の見事な黒馬に乗るサリを見ていれば、号令を飛ばすその合間や、視界を転じた瞬間に、ヒクンと肩が震えるのだ。 アーサーはわざと数歩遅れ、斜め後ろから 「師団長」 声を掛けた。 1番馬上で大きく身を捻る動作になるはずだ。 果たして、俊敏な動作で振り向きかけたサリは、途中で胸の辺りの服を握り締めた。 顔がほんのり桜色で、寄った眉がどこか煽情的だ。 ふら、と馬上でサリが前屈みになる。 「やはり体調が悪いのではありませんか?」 馬を寄せてアーサーは囁く。しかしサリは困ったように笑って、かぶりを振る。 「ありがとうアーサー。でも、大丈夫だ」 大丈夫、ということは、やはり体調は優れない、ということ。 アーサーはサリの胸を押さえる腕を掴んだ。 「無理はいけません、師団長」 「っ、」 「――え?」 かぁ、と赤みが増した頬。泣きそうな顔。 それらを一瞬確認したときには、腕を振り払われ、馬を離されていた。 「大丈夫だ。心配してくれるのは感謝するが――必要以上に構わなくていい」 言い残して、サリはもうひとりの副師団長の元へ行ってしまった。 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |