タチ専が異世界転生したら超堅物ノンケで!?

03


 視界が揺ら揺らして、躯がふわふわする。酩酊を体験したことのない『俺』は完全に油断しきっていた。

「おーいクオン? 大丈夫か?」
「すごいな、強そうとは思ってなかったけど、こんなに弱いのか」
「んぅ…らぃじょぶ、…」

 テーブルに突っ伏す俺の癖のない黒髪を誰かが梳くのが、気持ちいい。ふやりと口許が緩む。

「なんでこんな弱いのに飲みに来たんだよぉ」
「オンナとでも別れたのかあ?」

 けらけらと笑う同僚達に、答えに窮す。いっそそれならまだ良かった。

「別に…ただほんと、みんなと…一緒も、いいかな、って…」

 結局それしか言えなくて、鶏肉の炙り焼きをひとつ口に運んだ。酒の回った躯に脂と塩味が嬉しい。
 そんな俺の向こう側で、ひそひそと交わされる声。

「あの子供助けた日からクオン変わったよね」
「ああ、なんかちょっと…エロいっつーか」
「分かる。色気ってゆーか」

 分かる分かると頷き合う同僚達に、酔った俺が気付くはずもない。だが、聞いていたとしたら『俺』は理解できただろう。

 クソ真面目でほとんど性的行為に興味が無かった男が頻回に自慰するようになっただけでもフェロモンは変わるだろうし、同僚を見る目がそもそも『変』なのだから。

「クオン」
「ん…」

 呼ばれて、椅子に座り直させられる。周囲には計3人の同僚の騎士がいる。呼んだアーヴの顔が近付いて、


 ちゅ…

「ん…」

 ちゅ、ちゅ、…にゅ、るっ…

「んッ…? んぁ、ぁふっ…ぁっ…ん…」


 ぬるぬるする舌が唇を割って口内を探り倒す。ぬち、ぬちゃ、と音を立てて執拗に俺の舌を舐め絡める。

(ぁ…なんか…きもち…)

「え、全然抵抗しねぇじゃん」
「むしろすげーエロくない?」

 周囲の同僚が囁く。なにせ泥酔している俺だ。まともな判断力など働いていない。
 ぬるりと口蓋の真ん中をねぶられて途端に腰がくねった。

「ん、ふ、ぁ…っ」
「…クオン」

 目の前でアーヴが真剣な声で俺を呼ぶ。その目に『俺』は見覚えがあって、ぞゎ、と酩酊した頭でも僅かに冴えた。発情した雄の目だ。鏡プレイでネコ役を辱めるときに『俺』がしていた目。

 俺はアーヴから少し距離を取ろうと身動ぎしたが、王国騎士である彼の手はびくともしなかった。俺も非力ではないはずなのだが、酔いの影響だろう。

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