A&D 2

03


 伸ばした手をウーノの頬に触れて、なでなでと優しく慈しんでエディルは告げる。

「大丈夫です。ちゃんと血は毎日あげますから。あと、夜になればこの檻もちゃんとこの部屋いっぱいまで拡張するので、それまで良い子で待っててくださいね?」
「この部屋……」

 改めて周りを見ると、味気ない執務室のような場所だった。大きな執務机の上に分厚い本が一冊。あとは所謂キングサイズのベッドといくつかの戸棚と姿見。
 それとなぜか部屋の隅にガラス張りのシャワー室がある。

 だが、それだけだ。

 大きな窓は開け放たれて白いカーテンが揺れており、シーツも皺ひとつなく、清潔ではあるが生活感はない。

 まあ、天使も悪魔も食事も排泄もしないし、種類によっては睡眠も必要としないものもいるから、理解はできる。
 理解はできるからこそ、ベッドとシャワーの異質さが目を引くのだ。


「…ここ、お前の住処?」
「はい。天国と地上の間の、仮住まい用の空間だったんですけど、これからここに暮らしますよ。天国でも試したんですが、さすがに天国に悪魔は召喚できませんでした」
「…仮住まい用、ね」
「あ、はっきり言いましょうか? えっち用のおうちです」

「だよな!!!」


 天使は死んだ人間の魂を天国へ導く。それ以外にも仕事はあるらしいが、ウーノは知らない。
 ともかくヤツら天使は、地上から天国へ導く途中で気に入りの魂とヤりまくる。それが慰めでもあり、快感を与えて溜まった欲望を全部吐かせた上で天国へ入らせるという…建前らしい。

「やだな、えっちしないことの方が多いですよ? 元々天国に来られる人達ですからね」
「うるせークソ天使」
「ええ? ほら、ちゃんとあのシャワー室も特別製なんですよ。お湯出しても曇らないんです。ベッドから見られて恥ずかしがりながら準備する人とかすごく可愛くていいですよ」
「うるせーうるせー! あのな、前も言ったけど俺は性食系の悪魔じゃねぇんだよ、お前ら天使の異常な性癖押し付けてくるんじゃねぇ!」

 手を打ち払い喚いたウーノに、けれどエディルはぱちぱちと瞬いた。


「性食系の悪魔さんでないのは知ってます。でもウーノくん、あんなに気持ち良さそうだったじゃないですか」

「ッ!!」



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