犬が舌を垂らすとき

02


 シラの様子に気付いたのか、ソファにゆったりと腰かけていた飼い主が楽しそうに振り返る。

「大丈夫だよ。今回のお客様は、君にも気に入ってもらえるはずだ」
「…? はい…」

+++

 やってきたのは、恰幅の良い男性だった。

 それと、いわゆる超大型犬が、2匹。飼い主に言わせると、セント・バーナードと、グレート・デンという種類らしい。
 遠くで見ていると、それほどでもなかったが、近付いてみると、デカイ。

 半端なく、デカい。

 四足の状態で、2匹とも、シラの腰ほどもの大きさがあった。


 どくん、どくん、どくん、


 初見の客を驚かせないよう、深くかぶった帽子の下で、シラは赤くなる顔を抑える。躯が、犬の獣臭い匂いに反応してしまう。

「どうですか、具合は?」
「それがなぁ。どんな奴をあてがっても、飛びつきもせんのですよ」

 額の汗をハンカチで拭き拭き、飼い主の言葉に客が応じる。

「ほう、やはり人間だといけませんかね」
「それでは意味がない。払った金も返してもらわんと、」
「いえ、それは。少しお待ち下さい。――シラ」
「は、はいっ」

 呼ばれて近付くと、帽子をむしり取られた。ぴくん、と頭上の耳が立つ。

「ほう…!」

 客が感嘆したような声を上げて、飼い主はにやりと笑った。

「脱いで、部屋に行きなさい、シラ」
「…は、はい…」


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