犬が舌を垂らすとき 01 いっそ、言葉を封じられて、お前は犬なのだと調教されてしまえば、どれほど楽だっただろう。 男――飼い主の後ろに控えて、シラは思う。 飼い主にとって、シラはあくまでも人狼、ワーウルフだった。人間と狼の融合。つまり、犬の本能を持ちながらも、人間の理性を保ち続けることを望まれ続けた。 日々、犬に蕾を差し出しながらも、人間として話すこと、暮らすことを認められ、そして求められる。 「シラ」 「は――はい、ご主人さま…」 気が狂いそうなときに限って飼い主は、薄く繊細なティーカップに注がれたハーブティを勧めたりするのだ。 自分は人間である。同時に、人間ではない。 その終りのない懊悩の板ばさみになる。 また、本能というのは恐ろしいもので。 シラは、シラの躯は、確実に犬の性器に蕾を貫かれ、体内に精を注がれることに、悦びを感じてしまっていた。 こうして飼い主の後ろに控えている間も、シラの蕾はヒクついて、熱さと硬さを求め続けている。 捨てることを許されない理性が、どれほどの苦悩に苛まれているか、飼い主は知る由もないのだろう。 「今日、お客様がいらっしゃるからね。しっかりとおもてなしをしてくれ」 「は、はい…」 シラは俯く。以前にも客は何度か来ている。その度に客の男達はシラの衣服を剥ぎ取り、尻尾や耳を――躯をくまなく撫で回していく。 ただただ、気持ち悪いだけのイベントだ。 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |