アクマナサカナ

03


 そもそもこの蛸は、あのときの王とは違うかもしれないのだ。蛸の寿命がどれだけかは知らないが、きっとあの王である可能性の方が低い。

「大丈夫!」

 手を振って見せると、叔父はもう何も言わなかった。

 操舵室に居れば甲板の様子も見れるだろうが、父がわざわざ叔父を連れて行ったところを見ると、また自動操縦に任せて何か遊びに興じるのだろう。期待は出来ない。

 氷晴は海に引きずり込まれることのないよう、気を引き締めて壷に向き直った。
 だが。


「ぅわっ?!」


 目の前には既に蛸の脚──正確には、腕──が迫っていて、慌てて払いのけようとした氷晴の腕は、強力な吸盤に絡め取られてしまった。

「ぅ、嘘、お前、ほんとにあのときの?!」

 全ての巨大な蛸が、あんなことをするとは思えない。思いたくない。

「や、ヤダ、放せっ!」

 慌てて腕を振り回すが、蛸が――王が離れることはなく、それどころか違う脚が氷晴の腰に巻きつき、つなぎの隙間から氷晴に襲いかかる。
 せっかく鍛えられたはずの腕で、ぬるつく脚を掴んでも効果はなく、そもそも8本ある攻めの手に、2本の守りの手というのはどう考えても不利だ。

 ずるずるとアンダーシャツの中にまで潜り込んで来た脚に、氷晴は呆気なくパニックに陥った。

「ぅああっ…! い、嫌っ…ヤダ、やめっ…!」

 素肌を滑る脚は、迷いなく氷晴の乳首を弄び始める。

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