アクマノサカナ 02 ふたりがかりで甲板にごとりと置いた壺を早速覗いて、氷晴は歓喜の声を上げた。 「いる! すげぇ、めちゃくちゃデカいよ! ほら叔父さん、見て見て!」 壺の中でじっとしている蛸。確かに、さっきまでの蛸とは比べ物にならないサイズだ。 「すげー! 僕こんなでっかい蛸、初めて見たよー!」 「いきなりこんな奴捕まえるなんて、ヒバ、才能あるんじゃないか?」 「え、ほんと?」 本当は仕掛けるポイントを決めた者の手柄だが、跡取り候補は褒めておく叔父の作戦に、氷晴は単純に喜んだ。 帰るから船室に戻れと告げた叔父に、氷晴は王を見ていると言って甲板に残った。 叔父の姿は操舵室に消える。といってもほとんど自動操縦のはずだ。のんびりくつろぐのだろう。 氷晴は壺の底の王を、飽きることなく眺めた。 「すっげーなー、王さまー。出たらもっとデカいんだろうなー」 狭く暗いところを好む蛸は、壺から出ようとしないはずだ。 ――通常ならば。 にゅる、と薄い珊瑚色の足――本来は「腕」――が目の前に伸びてきて、氷晴は事態を把握出来ずに瞬きしてしまう。 「…え?」 続いて、ずるりと巨大な蛸が壺から這い出して来た。海水で満ちた壺は、倒れない。 「わ、わゎわっ、どうしよ、出て来た!」 突然のことに慌てふためく氷晴に構わず、王はその巨体を完全に甲板の上に現した。 「ぇと、網、はないし、銛、は傷つけちゃう、か…」 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |