アクマノサカナ 01 「おぅい、ヒバぁ!」 甲板の方で、叔父の声がする。 波の色の移り変わりを興味深く眺めていた氷晴は「はぁい」と返事をして、揺れる船を慣れない足取りで行った。 「ヒバじゃなくて、ヒバルだってばー」 「あぁ、いいから壺上げるの手伝え、ヒバ。お前が付けたいっつった、でけぇのもあんだからな」 「あ、うん!」 叔父は氷晴の父と漁師をやっている。蛸壺漁だけではやっていけないので、他にも何かやっているらしいが、氷晴は興味がないので知らない。 そんな氷晴が船に乗っているのは、氷晴の父が病を患ったからだ。 人手が足りないと頼まれ、それでも乗り気でなかった氷晴に、叔父は『王』を捕るのに挑戦していいから、と言った。 「えへへー、王さま掛かってってかなー」 無邪気に笑う氷晴をちらりと見て、叔父は軽く息を吐く。 「それでお前が興味もってくれたら、いいんだがな…」 弱冠16歳の氷晴は、漁師になるつもりはない。 父も叔父も跡継ぎを望んでいるが、当の本人は今、珍しい生き物が見たいだけなのだ。 『王』というのは、2mを超える大きな蛸だ。もちろんそうそう捕れるものではない。 「王さまー、王さまー」 実に楽しげに氷晴は壺を引き上げていく。 全てではないが、かなりの壺に蛸が納まっている。大漁と言える方だろう。 「ぐッ、重っ!」 最後の壺は、王を捕らえるために大きなものを使った。海水が溜まるだけでも、かなりの重量だろう。 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |