淫妖奇譚 03 「なればこの身、どこに寄せれば良い」 「うん、俺があなたの呪を祓います。そしたらあなたは自由だ」 犬神が失せても主に才があれば、この家が傾くことはないだろう。 「お前が、受け入れてくれるのだな。――双葉」 「!」 名を呼ばれた途端、ずしりと全身に圧が掛かった。 力のある言葉だ。 「な、んで…名、を」 「何故かな」 笑いを含んだ声と同時に、がたんと衝立が倒れ、毛足の長い巨狗が飛び掛って来た。 身体の自由がうまく利かない状態だ、当然のように双葉は簡単に引っ繰り返る。 「ぅぎゃッ!」 「私を受け入れろ、双葉」 「ッく…っ」 名を呼ばれる度に頭の芯がぼやける。陰陽師として鍛錬していなければ、すぐにでも肯いてしまっているに違いない。 がっ、と狗の牙が衣服に食い込む。ぅげ、と思った瞬間には、犬神は頭を激しく振るって、破り裂いた。 狩衣だけでなく袴も下穿きも食い千切られ、何故か裸に剥かれていく。 「クソ、魂でなく、血肉を欲すか、犬神…っ!」 「愚か者。与えろではない、受け入れろと、そう言ったぞ、双葉」 呼んだ名も、種族名であって個体名ではないが故に、力は弱い。 言うと、犬神は長い鼻面を股間に埋め、 べちゃっ 「ひぎッ?!」 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |