前述。

02



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 夕暮れ、慶壱は適度な疲労感を感じながら、件の部屋へ戻った。

「ただいまー、ネぉおおおお?!」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったのは、水槽の中の個体がふたつになっていたからだ。

「おぉー…」

 イソギンチャクが無性生殖として分裂することは知っていたが、それにしても細胞分裂の速度が速過ぎる。

 感嘆しながら近寄り、いつものように縁に肘を乗せて体重を預けた。

「組み換えの成果、なのか…?」

 赤いネオはただ触手を揺らす。慶壱はボードを手に取り、とりあえず変化を記入する。

「全くおんなじだから、両方ネオでいいかなぁ。…繁殖なんだとすると、お嫁さん欲しいよなぁ、ネオー?」

 イソギンチャクは雌雄で有性生殖もする。研究者としては、遺伝子組み換え生物の子孫がどうなるのか、気になるところだ。
 お嫁さんと言ったが、そう言えばネオが雄かどうかも気にしていなかったと資料をめくる慶壱の視界が、ふと翳った。

「ん?」

 何気なく上げた視線の先で、何十もの赤いヌメった触手が蠢き、慶壱に向かって伸びていた。

「ひッ?! ネオ?!」
 ずちゅっ…ずる…ずるる…っぢゅる…

 カタンっ、とボードが落ちる。ひとつひとつは細い触手が、何十も束になって慶壱を捕らえる。

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