前述。

01


 見た目は、イソギンチャクに近い。実際、ベースはイソギンチャクらしい。
 大きさは、最初握り拳程度だったひと株が、もう直径30cmにまで育った。
 部屋の半分近くを占める、腰程度の高さの水槽の真ん中で、いくつもの赤い触手を蠢かせている。

 ベースは、と言った理由は、それが遺伝子を組み換えることで誕生した、新生物だからだ。


「ネオ」


 新しい生物だからと付けた名を、必ず慶壱は呼ぶ。
 博士の研究対象だが、慶壱は自ら付けたその安直な名を気に入り、呼んでいる。

 他の研究室では、愛情を注ぐことで意思を持った植物の開発に成功したと風の便りで聞いている。

「ネオだって俺のこと、判るようになるかもだもんなー?」

 低い水槽の縁に体重を預け、声を掛ける。
 ネオというイソギンチャクもどきは、ゆらゆらと触手を揺らめかせるだけだ。

「待ってるからなー、ネオー」

 にへー。とだらしなく顔を緩ませ、慶壱は笑う。

 特にイソギンチャクが好きな訳ではない。ただ、生まれてすぐからずっと面倒を見ているのだ。当然愛着だって湧く。
 もしかしたら自分を認識してくれるかもしれないと思えば、楽しくもなる。幸い、前例もある。

 飽きることなく見ていると、ノックの後、扉が開いた。

「またここにいた、内海 慶壱」
「え。あ、もうそんな時間?」

 同僚の広垣のわざとらしいフルネームコールに、慶壱は身体を跳ね起こす。
 慶壱も立派な研究所の一員だ。発展するかも確信のないイソギンチャクもどきの観察ばかりしていられない。

「わわ、じゃあネオっ、また来るからなッ」

 そう言い残し、慶壱は広垣と連れ立って部屋を後にした。
 ゆらりとネオが、手を振る。

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