君が判りません・中篇

02


 ぎしりと音を立ててベッドに座ると、後藤は手にしていたコップを俺に手渡した。中には水が入っている。

「俺の親父、まァとある会社の社長でね。跡継ぎは兄貴って決まってるわけなんだけど。んで、次男の俺は兄貴のスペアでさ。
それが癪だったから、俺ゲイなんだってカミングアウトしたら家追い出されちゃって。
でも外聞があるからって、部屋とか、金のことは面倒見てくれてるけど、基本的には勘当されてんの」
「…」

 一般人にはおよそ理解出来ない世界の話に、俺は黙って水を飲む。


 愛されて、なかったのかな。


 そんなことを、思う。

 だからあんなに妄執的で、こんなに必死に俺を捕らえておこうとするのだろうか。
 じぃ、と後藤を見つめていると、後藤は笑ってキスをしてきた。

「そんなかわいい顔してると、また抱くよ?」
「ッ!」

 思春期のことだ、多少は仕方ないとは言え、思考が下半身に直結し過ぎだ!

 歯を噛み締めた俺に、後藤はよしよしと頭を撫でた。

「半分は本気だけど、半分は冗談だよ。さすがに俺もキツいや」
「ぁ…」

 ほ、と安心したのも束の間。



「だから今日はマジお仕置きね」



「――へ。…え、っだ、だって、昨日っ…!」
「昨日のは2日お預け喰らった俺の鬱憤晴らし」
「ぅ、嘘だろッ…?」

 今までの甘い空気が、一変する。
 後藤の眼が、ギラリと光る。

「先生は俺のだよ。なのに他の奴とふたりで飲みに行く約束なんて。酔ったところを襲う気に決まってるのに」


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