君が判りません・前篇

08


 …そう。後藤のあの眼からは、逃げることなど、出来はしない。

 俺は恐る恐る振り向き、後藤――ビデオ――を見た。
 エロい言葉なんて浮ばないから、後藤がいつも俺に使う言葉を言ってやればいいだろう。



「…ッぉ、お、おし、…おしりの…あな…な、なッ、な、…なめて…」



 途中から顔が物凄く熱くなって、最後にはシーツに顔を埋めてしまった。

 なんだこれ半端なく恥ずかしいじゃねぇか!!
 よく後藤は平然と言えるもんだな?!

「…」

 耳まで熱い。今すぐ消えたい。
 後藤の反応がないのがつら過ぎる。さすがの後藤もヒいたか、こんなことを言う三十路前には。言った俺だってドン引きだ。

「…そうやって、廣瀬にも言ったの?」

 「は?!」お前が言えって言うから言ったんだろうが!
 思わず俺は赤い顔のまま振り向き、後藤を睨んだ。だが後藤に効果はない。

 カメラを向けて、にやりと笑う。

「そんな潤んだ目で睨んでも恐くないよ。ほらせんせ、もっかい。今度はちゃんと、最後まで俺を見て言って」
「なッ!」

 やられた。
 あんな屈辱を、更に強要されるなんて。

 顔を背けることも、もう許されない。カメラレンズを見つめると、みるみるまた俺の顔は茹だっていった。

「…先生ってホントかわいいね。凄くいじめたくなる。ほら、早く。次は丁寧語で言ってもらおうかな」


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