既に駄目です

04


 なんと切り出したものかと、懸命に切る口火を探していると、後藤が少しだけ微笑んで言った。

「俺のこともまだ、構ってくれるんですね」

 一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。
 後藤は既に制服から着替えていて、ラフなロングTシャツと深い緑のワークパンツ。穏やかな表情からは、一見怒りは見られない、が。

「…怒ってるんだな?」
「いいえ?」
「嘘つけ。あのな後藤。俺が、」

 俺が躯を繋げるのは、いちいち気に掛けるのは、お前だけなんだと。

――それ、どんな告白だ。

 言おうとした瞬間に我に返ってしまった。かあ、と熱くなる頬。

 後藤の顔をまともに見れなくて俯いた俺の視界が、ふと陰る。見上げると、立ち上がった後藤が、そっと俺の頬に手を伸ばすところだった。

「!」
 冷たい指先に、ぴくりと躯が震える。

 後藤が腰を屈めて、俺の目を覗き込んだ。その、芯まで冷え切るような、視線。

「かわいい、先生」
「ご、ごと…?」
「思い出しただけで照れちゃう?」
「な、は?」
「岩永は、そんなにヨかった?」
「は?! ちょ、ちがっ!」

「ねえ先生。俺じゃ、物足りなくなっちゃった…?」

 切なげな言葉とは裏腹に、素早く外されていくボタン。慌てて後藤の手を掴もうとして――やめた。
 こうなれば後藤は止まらない。抵抗すれば、後藤は更にヒートアップするだろう。ならばもう、受け入れるしか――。

 しかし後藤は、俺が思っているよりも、そして俺よりも、冷静だった。

「ふぅん。嫌がらないってことは、やっぱり物足りなくなってたんだ。ごめんね? 俺、気付かなくて」


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