既に駄目です

03


 しばらくして、後藤からの返信があった。

『岩永は?』

 やっぱり勘違いしてる。もはやわざとじゃないかと思うくらいだが、きっと、後藤は本気なのだろう。
 既にどれだけ俺を支配して、躯を重ねたと思ってる。なにが愛してるだ、俺の気持ちひとつ判ってないくせに。

――俺の気持ちなんて、俺も、判ってないけど。

 後藤に勘違いされたくないのは、間違いなく『恐怖』からだ。でも、思う。本当に嫌なら、嫌いなら、何故…。

「ッいや、誤解を解くのが先だ」

『岩永とは本当に』
 まだるっこしい。打っている途中のメールを破棄して、短いメール文を送り付ける。


『会って話そう』


 電話だとあいつはまた俺の傍に誰かいるとか勝手に考えて怒るのだ、ならば会った方がいい。
 けれど、後藤は俺よりもずっとずっと上手だった。

『俺、もう家ですけど。』
「ッ!」

 身体がすくむ。以前あいつの家に監禁された記憶は、まだ薄れてもいない。
 しかも後藤は今回もまた勘違いした状態。
 そんな中に乗り込んでいけば、確実に帰れなくなる。

 だが。

 かと言って「じゃあまた明日に」なんて送ろうものなら、後藤が更に疑心暗鬼になるのも目に見えている。
 ああ、こんな台詞。可愛い彼女に送るのだったら、どれだけ心が弾んだだろう。

『家、行ってもいいか?』

 来ないでくれと言われても、恐い。それでも、祈らずにいられない。電話を握り締めて待つ俺に、後藤はあっさりとした文面で返してきた。


『どうぞ。』




+++




 部屋に入るなり、問答無用で犯されるかとビクビクしていた俺の予想に反して、後藤はリビングのローテーブルに紅茶を用意して、どうぞと促した。
 まるで家庭訪問。俺はどぎまぎしながら、後藤の斜向かいのソファに腰かける。

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