既に駄目です

02


 
「今はいない、募集中だ」
「えーマジ? 先生モテそうなのにー」
「おだてたって何も出ないぞ」
「お世辞じゃねぇし! 先生の顔イイと思うけどなー俺。ま、俺には負けるけど? とか言って」

 冗談めかして言う岩永は、所謂『男前』ではないけれど、人柄のお陰かどこかひと好きのする顔で、そんな奴に褒められて、まあ俺も悪い気はしない。

 だからつい。
 俺は、ぽんと岩永の肩を叩き、笑って言った。

「ま、俺も岩永のカオ、確かにイイと思う。だからお前にそう言われると素直に嬉しいな」
「っ!」

 弄られることには慣れていても、直球で褒められると照れるらしい。顔を赤くした岩永にまた笑って、俺はさりげなく教室を後にした。岩永がいる以上、そこでいつもの行為はできるはずがない。

 後藤は、と視線を走らせてすぐ、俺は奴を見付けた。だが、後藤は俺と目が合っても、にこりともしない。


 ゾクリと、嫌な予感がした。


 後藤の独占欲は、たぶん、世界で1番俺がよく知っている。

「お、おはよう、後藤」
「…」
「今のはホントに、喋ってただけ、だろ? 約束なんて、してない…」
「また連絡します」
「ごとっ…!」

 伸ばした手をすり抜け、教室へ入っていく後藤の後ろ姿を、俺は茫然と見送る。一旦出た教室に追って入るのもおかしい。

 でも、不安で。後藤が岩永に何かしないかって。俺の所為で岩永になにかあるんじゃないかって。

 だから俺はしばらく、その場に立ち尽していた。



+++



 昼休みも、呼び出されなかった。
 以前のことですっかり懲りた俺は、放課後メールを入れた。

『連絡ないから、してみた』

 だから? と自分でも言いたくなるような内容だが、これ以上にどう言えばいいのか判らず、結局このまま送った。
 ちゃんと気に掛けてる。それが伝えられればいい。義務みたいなものだ。

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