既に駄目です 01 いつもの呼び出し。早朝の教室。 重い足を引きずりながら向かったそこに、後藤はまだ着いていなかった。 ぼんやり机に腰掛けて待つ。 なにをしているのか。ひとりになると、いつも思う。 教師のくせに、男のくせに、男子生徒に犯されるなんて。 自然、溜め息がこぼれる。 からら、と軽い音がして扉が開く。どうせ後藤だ。そう思って振り向きもしなかった俺の肩を、ぽんと叩いた手。 「青木先生?」 「っ?!」 驚いた理由はただひとつ。 その手の主は、後藤ではなかったのだ。 慌てて振り向くとそこにいたのは、当然この教室の生徒で後藤のクラスメイトの、岩永。クラスにひとりはいるようなお調子者だ。 俺はすぐに後藤の姿を探す。廣瀬のときのような言い掛かりは堪弁だし、岡部のようにこの岩永も『仲間』だ、なんてことにはならないかと。 だが奴の姿はなく、岩永は不思議そうに首を傾げた。 「どしたの、先生。こんな早くに」 「えっ…あ、いや、」 上手い言い訳が出て来ない。 慌てる俺に、岩永はけれど、くすりと笑った。 「なに、家に居たくなかったとか? あー判った、彼女っしょ! 喧嘩して逃げてきたんだ」 「ばっ、そんな訳あるか!」 けらけら笑われて、毒気を抜かれた。 男性教師がちょっと早くに登校してたからって、『ああ、犯されに来てるんだな』なんて思うはずがない。 それに、やっぱりこれまでの人生は間違っちゃいなかった。俺が男に好かれるなんてことは、まずないのだ――あいつ、以外には。 「えー? じゃあ先生、彼女はいんの?」 「主旨ズレてるぞ」 「いいじゃんいいじゃん。先生彼女いんのー?」 正直、ズレてくれて助かった。 俺はこっそり胸を撫で下ろしながら、ようやく調子を取り戻す。これくらいのあしらい、教師なら誰でもお手のものだろう。 [*前] | [次#] 『学校関連』目次へ / 品書へ |