卒業記念

01


 桜の咲き乱れる頃。
 始まりの前の、別れの季節。

「おいおい、もう泣くなよ…」

 親友が男泣きに泣く慎吾の背をぽんぽんと叩いた。

 卒業式を終えて、最後だから部室に行きたいと親友のジラルド――通称ジル――を連れて、がらんとした部室まで来ている。
 3年間を過ごした部室だ。男子テニス部の部室だけあって雑然としてはいるが、卒業生の荷物が減っている分、やはり寂しく見えた。

「お前はいいよなぁジル…」

 涙声で慎吾は言う。春から遠い県の大学に通う慎吾は、淋しさもひとしおだ。
 「…」返す言葉もないらしく、ジルは今日脱げばきっともう着ることはない学ランの胸元を、何も言わずにぎゅうと握った。

 母が外国人で、鮮やかな琥珀色の髪、深い碧の目。加えてとても整った容貌のジルは、そうして切なげに睫毛を震わせると、男でも親友でも、ぎょっとしてしまうくらいの色気が漂う。
 実際、これまでも何度か危うい目に遭ったことはあるのだという。そんなジルが、慎吾は不安でもあった。

 不意に外から話し声がして、部室のドアが開いた。

「おっ、やっぱお前らも来てたかー」

 現れたのは、同じテニス部の司と昭平だった。同じ学年のクラブメイトは、この4人だけだ。
 慎吾は慌てて涙を拭う。

 部室に入ってくるなり、しみじみと司が部室を眺める。

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