不協和音

02


 水曜日の放課後は管弦楽部の部活はなく、がらんとした音楽室は、なんだか新鮮な気分だった。
 なんとなくピアノに近付いて、白と黒の鍵盤に指を滑らせる。

「兄さん」
「! 卓也」

 入り口から卓也が走って来て、いきなり俺の肩を痛いくらいに掴んだ。上目遣いに睨んで、のたまう。

「佐藤さんと付き合うことになったんだって?」

 告白してきた後輩の名前。やっぱりその話かよ、とうんざりして、俺は卓也の眼鏡面を睨み返した。

「それが?」

 卓也はあの子がやはり好きだったのだろう。とんだ逆恨みだ。

「あのな。俺は告られたからOKしただけだぞ。俺がお前の好きな奴を知ってて、嫌がらせで受けたとか、そんなんじゃない。お前の気持ちは、好きな奴に言えよ」

 淡々と告げて、阿呆らしいと音楽室を出ようとして卓也に背を向けた途端、がしりと腕を掴まれた。

「分かってるよ。兄さんは昔から、俺の気持ちなんて分かっちゃいない」

 頭にクる言い回しだが、そこは兄の威厳で受け流す。

「ああ、そうだね。卓也の気持ちを俺なんかが分かるなんて言えないよ」

 卓也の溜め息。そしていきなり、背後から抱き締められた。

「!? おい卓ッ──」
「もう我慢出来ない。こんだけやっても伝わらないなら、実力行使しかないよね」
「何言っ──んん!?」

 振り向いた途端、卓也の顔がそこにあって、唇に卓也のそれが重なった。
 逃げたいのに躯はしっかりと抱き込まれ、唇を舐められ、食まれ、ちゅ、ちゅう、とリップノイズを立てて、弄ばれる。

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