in 【化学室】

赤羽 涼の場合 2


 どうぞと代わりにお菓子を差し出せば、真尋は子供のように微笑んだ。

「さっきも校長からクッキーを頂いたんですが、いいですね、お菓子を作れるって」
「校長から?」
「ええ、【クロッカス。・デイ】なんだとかで。記念日なんだそうです」
「それで、黒川先生に?」
「幸せのお裾分け、だそうです」

 釈然としない涼に構わず、もぐもぐと真尋はフィナンシェを頬張る。
 いくつか食べてから、ふと気付いたように首を傾げた。

「赤羽先生は食べないんですか?」
「ええ、私は家でたくさん食べてしまいましたので。これは、黒川先生のですよ」
「な、なんか申し訳ないですね…。一緒に食べませんか?」

(…かわいい…)

 大の男が、一緒に、だなんて、普通なら鳥肌ものだが。
 恋は盲目だとでもいうのか、涼は「いいんです」と手を振って、食べる真尋をじっと観察した。

 それはもう、じっと。

「…あ、赤羽先生、な、なにか?」
「いえ?」

 にっこり笑ってごまかす。

(超即効性、という謳い文句でしたから、そろそろ効いてもいいと思うのですが)

 笑顔の裏でそんなことを考えて、涼はにこにこと真尋を観察し続ける。
 とりあえずは笑みを返した真尋だったが、しばらく居心地悪そうに小さくなってフィナンシェを食べ、そして。


「…、」



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