in 【化学室】

赤羽 涼の場合 1


※(媚薬/尿道攻)

 彼と出会ったのは、ほんの偶然。
 化学の実験中、フラスコを割って怪我をした生徒の付き添いで保健室を訪れた彼に、涼はいわゆるひと目惚れをしたのだ。

 色素の薄い髪と目と肌。怪我が大したものではないと知って安心したときのあの笑顔。

 養護教諭である涼を、彼――真尋が訪れることはほとんどない。
 事実、あれ以来真尋は保健室に現れていない。

 会えないのならば、会いに行くまで。

 それからと言うもの、涼は度々腕を振るってお菓子を作っては、放課後、真尋の元――化学室に訪れていた。彼の周りにはいつも誰かしらがいて、十分な時間が取れることはなかなか無かったが、それでも会えないよりはずっといい。

 今日は、放課後も早い時間を狙っていた。
 魔が差したとでも言うのか、今日のお菓子には、少し細工をしたから。効き目の程は、半信半疑だ。

 それでもどことなく昂ぶる気持ちを抑えて、涼は化学室の扉を開く。
 そのガラガラと妙に大きな音に、中で実験器具をいじっていた真尋が振り向いた。

「あぁ、赤羽先生」

 ノンフレームの眼鏡の奥で、彼の目が輝く。どうも彼は、涼のお菓子を楽しみにしてくれているようだ。

「今日も作ってきたんです。黒川先生、食べませんか? フィナンシェですよ」
「いただきますっ」

 すぐに立ち上がって、彼は準備室へと消える。そこにはマグカップがふたつ置かれている。ひとつは真尋のもので、もうひとつは涼が持参したものだ。
 そのマグカップにインスタントのコーヒーを注いだ真尋が戻ってくる。

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