in 【化学室】 イントロダクション 2 「ごちそうさまです、美味しかったです。えっと、今日はなにかを贈り合う日でしたか?」 真尋がおずおずと訊ねると、校長は「いいえ」と首を振った。 ではなんの日だろうと訝った真尋に、彼はにこにこと応じる。 「今日はただの記念日です。私にとって、そして、私の大切なひとにとって」 「そうなんですか。おめでとうございます」 「ありがとう。だから、幸せのお裾分けというわけですよ」 校長はそう言って満足気に更に目を細め、くるりと踵を返した。 真尋は慌てて声を掛ける。 「あ、ありがとうございます。えっと、ハッピー…、」 「【クロッカス。・デイ】。…黒川先生も、楽しくなれますように」 背中を完全に見送ってから、真尋は準備の途中だった実験器具を再び並べ始める。 それから次に化学室へ入ってきた相手に、片手を上げて見せた。 「ああ、」 「校長、どちらへ?」 「うん。この良き日にたくさん可愛がってもらえる幸せな子達に、先駆けてプレゼントを」 「ああ、今日でしたか」 「そう。たっぷり楽しめるようにね。やっぱりせっかくのフィニッシュに、順番の問題で『出ない』ってのは興ざめだろう? ついでに、大切なトコロで感じられるように、ちょっとね」 「相変わらずド鬼畜のド変態ですね」 「今更だ」 教頭との会話を薄笑いの内に終らせて、校長は彼らに向けてそっと呟く。 「では、3月20日を楽しんで下さい」 [*前] | [次#] /87 『頂き物』へ / >>TOP |