in 【屋上】

秋山 汐の場合 2


 ところが、冴が水道にホースを繋ぎ、蛇口を捻った途端。

 ブシュウウゥウウ!

「わ、あ、ゎ」
「ちょっ、ちょっ冴?!」

 汐がホースの先を潰し過ぎていたのか、冴の差し込み方が悪かったのか、ホースは蛇口から勢いよく外れ、冴に思い切り掛かる。水を止めようと駆け寄った汐も、同じ被害を被った。

「あはは、びしょびしょ」
「…カメラ濡れなくて良かった…」

 何故か楽しげな冴。汐は愛用のカメラを見やる。

「風邪、引く、な」

 そしてふと冴に視線を戻すと、彼は紺色のセーターを脱ぎ、ぎゅうと絞っていた。濡れた髪や顎の先からは雫が垂れる。肌に張りついた、白いシャツ。下のTシャツが透けて見えて。
 汐は、ごくりと唾を飲んだ。

 何故だろう。友人に、男に、こんな。
(色っぽいと思うなんて…)

 自らの思考を疑いながらも、汐はカメラを手にした。

「冴、その、良かったら…そのまま、撮らせてもらえないか?」
「この、まま? ん…いいけど…」
「風邪引かない程度で終るからさ!」

 冴の言いたいであろうことを先取りすると、冴はこくりと肯いた。彼はとても不思議な人間だ。『何故』とか、そういうことをあまり口にしない。

 レンズを彼に向ける。

 なんとなく、冴の周囲に紫色のオーラがあるように見え――。

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