in 【屋上】 秋山 汐の場合 2 ところが、冴が水道にホースを繋ぎ、蛇口を捻った途端。 ブシュウウゥウウ! 「わ、あ、ゎ」 「ちょっ、ちょっ冴?!」 汐がホースの先を潰し過ぎていたのか、冴の差し込み方が悪かったのか、ホースは蛇口から勢いよく外れ、冴に思い切り掛かる。水を止めようと駆け寄った汐も、同じ被害を被った。 「あはは、びしょびしょ」 「…カメラ濡れなくて良かった…」 何故か楽しげな冴。汐は愛用のカメラを見やる。 「風邪、引く、な」 そしてふと冴に視線を戻すと、彼は紺色のセーターを脱ぎ、ぎゅうと絞っていた。濡れた髪や顎の先からは雫が垂れる。肌に張りついた、白いシャツ。下のTシャツが透けて見えて。 汐は、ごくりと唾を飲んだ。 何故だろう。友人に、男に、こんな。 (色っぽいと思うなんて…) 自らの思考を疑いながらも、汐はカメラを手にした。 「冴、その、良かったら…そのまま、撮らせてもらえないか?」 「この、まま? ん…いいけど…」 「風邪引かない程度で終るからさ!」 冴の言いたいであろうことを先取りすると、冴はこくりと肯いた。彼はとても不思議な人間だ。『何故』とか、そういうことをあまり口にしない。 レンズを彼に向ける。 なんとなく、冴の周囲に紫色のオーラがあるように見え――。 [*前] | [次#] /144 『頂き物』へ / >>TOP |