in 【化学室】 イントロダクション 1 白衣の裾を翻し、真尋はせっせと準備室から化学室に物品を運ぶ。 明日の授業で実験をする、その用意だ。 別に急ぐものではないのだが、いざ当日になって足りない、という事態になるのは避けたい。 取り出したビーカーの数を数えていると、がらりと入り口が開いて、 「、校長」 予想もしない人物が立っていたことに、愕然とした。 普段彼は、校長室からほとんど出て来ない。式典のときに少しだけ挨拶をする程度で、真尋達教師陣ともあまり交流はない。 校長は穏やかに微笑むと、ピンク色の包装を施されたなにかを差し出した。 「ハッピー・【クロッカス。・デイ】、黒川先生」 「ハッピー…何ですか?」 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。校長は構わず真尋の手に無理矢理そのなにか――小さな箱のようだ――を持たせた。 「これを、あなたに。食べてみてもらえませんか?」 「食べ物なんですか?」 促されて開くと、そこには確かに1枚のクッキー。クロッカスの花の形をしていて、中央にはチョコペンで『Eat Me!』と書かれている。 「これは、校長先生が?」 「はい」 「いただいてよろしいんですか?」 「是非」 笑顔で言われれば、食べないわけにはいかない。さくさくと真尋はクッキーをたいらげた。 特に変わった味はしない。甘さも控えめの普通のクッキーだ。 [*前] | [次#] /87 『頂き物』へ / >>TOP |