in 【音楽室】

イントロダクション 2


 しかし期待されているようなので、とりあえずは食べてやり、それから箱を突き返した。

「もう行っていいスか」
「おいしかったかな?」
「…まぁまぁ」

 正直、口の中がぱさぱさになって水が欲しくなったけれど、そんなことを言うのも面倒なのでおざなりに褒めてやると、彼は嬉しそうな顔をした。
 普段は校長室に引き篭っているという話だが、たまに出てきたかと思えばクッキーを配り歩いているとは、よほどの変人だ。


「ハッピー・【クロッカス。・デイ】」


 そう言って手を振る校長に背を向けて、音楽室へ向かった。
 訳が判らない。

 到着した、廊下の端の部屋。防音の分厚い扉を開いて、中にいた人物に渉は少しだけ首を傾げ、口の端を上げて見せた。

「…よぉ」


***


「校長、どちらへ?」
「うん。この良き日にたくさん可愛がってもらえる幸せな子達に、先駆けてプレゼントを」
「ああ、今日でしたか」
「そう。たっぷり楽しめるようにね。やっぱりせっかくのフィニッシュに、順番の問題で『出ない』ってのは興ざめだろう? ついでに、大切なトコロで感じられるように、ちょっとね」
「相変わらずド鬼畜のド変態ですね」
「今更だ」

 教頭との会話を薄笑いの内に終らせて、校長は彼らに向けてそっと呟く。


「では、3月20日を楽しんで下さい」



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